全 情 報

ID番号 05381
事件名 仮処分申請事件
いわゆる事件名 別府観光交通事件
争点
事案概要  三六協定の有効期間が切れたのちに、組合が残業拒否闘争をしたことに対するロックアウトは許されないとされた事例。
参照法条 労働基準法36条
民法536条2項
体系項目 労働時間(民事) / 時間外・休日労働 / 時間外・休日労働の義務
裁判年月日 1964年4月25日
裁判所名 大分地
裁判形式 決定
事件番号 昭和39年 (ヨ) 70 
裁判結果 申請却下
出典 タイムズ163号136頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働時間-時間外・休日労働-時間外・休日労働の義務〕
 (2) しかしロツクアウトは労働者の争議行為によつて受ける使用者の損害が、その争議行為との関連において使用者の受忍すべき限度を超えると判断される場合即ち労働者の争議行為によつて企業の存立が脅やかされるような重大な損害が発生する場合或いは明らかに正当な争議行為の限界を逸脱する場合等にのみ許されると解するのを相当とする。従つて使用者がロツクアウトをするにつき、右に述べた意味での必要も利益もないのに、みだりにこれを実施することは違法であるといわなければならない。
 (3) これを本件についてみれば組合がストライキ通告をした四月六日から会社がロツクアウトの通告をした四月一一日に至るまで組合は四月六日に三時間の時限ストを行つたのみで以後は(特に四月八日に両者の団体交渉が決裂した後も)協約に定められた八時間の労働に従事し、右労働時間内においては何ら会社業務の正常な運営を阻害するような行為は存在しなかつた。
 そしてその間組合は会社に対し「争議行為」の一つとして四月八日以降残業拒否通告をなし、会社は此の「争議行為」に対抗する手段として本件ロツクアウト通告をなしたのであるが、時間外労働協定が期間満了によつて失効していることが認められるから(会社は協約によつて時間外労働協定を締結したのであり、右協約は四月一日以降も効力があるから、残業拒否は協約及び就業規則違反であると主張しているのであるが、協約三四条によれば、時間外、休日出勤等別に定める旨規定されており、協約自体によつて時間外等労働が定められるものでないことは明らかであり、労働基準監督署に対する時間外労働協定の届出書によれば右協定の有効期間は昭和三八年四月一日から三九年三月三日までであることを認めるにたりる)組合員には協約で定められた一日八時間以上労働をなす義務はなく、従つて会社の業務命令は無効である。即ち、時間外労働協定が存在しない場合には、会社の正常な業務とは一週四八時間を超えない限度で労働協約で定められた時間内における労働によるものと解すべきであるから、この時間を超えて労働しなかつたからといつて「業務の正常な運営を阻害する行為」であるとはいえない。
 此の点につき時間外労働協定失効後も七日間現実に一カ月拘束労働時間三五三時間の割合による労働が行われていた事実をうかがうにたりるけれども、労働基準法三六条違反の此の事実が現実に行われていたからといつて、協約による労働時間を超えて労働しないことが業務の正常な運営を阻害する行為であるということはできないと解する。
 勿論会社の営業の性質からみて夜間においても自動車を運行させる必要があり、残業拒否によつて三日間これを為しえなかつたため或る程度の損害が発生した事実は推認するに難くはないけれども、この損害自体会社の存立を脅やかすに至るような重大な損害であるとは考え難いし、元来この損害は労働基準法が労働者の身心の保護を図つていることの当然の結果というべく、争議行為による損害とはいえない。
 (4) 以上のとおりであるから本件ロツクアウトは前記の理由により違法だと言わなければならない。