全 情 報

ID番号 05425
事件名 地位保全等仮処分申請事件
いわゆる事件名 明治鉱業事件
争点
事案概要  工場長に対し、事務課長代理を命ずる旨の辞令を返上し一工員になる旨を言明して職場を離脱した行為をもって、雇傭契約の解約の申入れであり、会社の承諾をもって雇傭契約は終了したとされた事例。
参照法条 労働基準法2章
民法93条
体系項目 退職 / 合意解約
裁判年月日 1965年10月26日
裁判所名 釧路地
裁判形式 判決
事件番号 昭和40年 (ヨ) 48 
裁判結果 申請却下
出典 労働民例集16巻5号757頁/タイムズ183号190頁
審級関係
評釈論文 楢崎二郎・ジュリスト382号143頁
判決理由 〔退職-合意解約〕
 右辞令返上の行為をもつて退職の意思表示があつたとみれるかどうかについて判断する。およそ法律行為の解釈は表示行為が有する客観的意味を確定するにあり、これがためには表示行為そのものを組成する当該意思表示のなされた際の諸般の事情に即して客観的合理的に解釈するを要することはいうをまたない。ところで・・・・・・によれば、右辞令返上がなされた経過として次の事情が認められる。すなわち、債権者は、もとA鉱業株式会社庶路鉱業所に坑内夫として雇傭され、同鉱業所労働組合の書記長に就任していたが、同三九年一月三一日、同鉱業所の閉鎖にあたり同会社は、労働組合その他の間に、新たに数種の関連企業を開設して、閉山に伴う離職者全員をこれに雇傭する旨の協定を締結し、右協定にしたがつて債務者会社その他の会社が設立された。右閉山協定の際日本炭鉱労働組合北海道地方本部の意向をうけ前記鉱業所労働組合の三役の就職については労務政策上特別の配慮をなし債権者は債務者会社の事務課長代理、B執行委員長については関連企業であるC製作所の営業課長代理の地位を与えこれを採用するに至つた。ところが、その後右協定の完全実施は到底期待されない事態となつたため、債権者は、これを察知した関連企業への就職をまつていた離職者から攻撃をうけ、債権者自身右協定締結に関与した者として右の事態に責任を感じる一方、会社内にあつては、債務者会社において工場長その他の会社幹部が債権者を管理職者として取扱わず自己を疎外しているものと邪推し辞意をもらすに至り、遂に前記のとおり退職届を提出するに至つた。その後債権者は、前記のとおり右退職届を撤回したものの、二月末頃から再三にわたつて執拗に、債務者の常勤取締役であり札幌在住のD社長に代り常務を掌理していたE工場長に対し、事務課長代理を辞め一工員になりたい旨を表明し、了承を求めたが、同工場長は、事務課長代理をば工員に降格するようなことは懲戒としてもたやすくできないことであるとして右申し出を拒否し、組合との労働協約締結事務を担当するよう慰留し、他方債権者採用の前記経緯から釧路地方炭鉱労働組合協議会議長FもまたE工場長の意をうけ前記就職の経緯から強く翻意を求めてきた。しかるに債権者は、三月五日一方的に辞令返上の挙に出るに至り、連絡をうけ前記Fも最終的にその非を説き重ねて翻意を求めたが、債権者は自己の意向を固執して譲らなかつたためその旨をE工場長につたえた。この間三月八日付文書で債権者は工場長の内諾があつたものと一方的に断定し工場に帰る旨の意思表示をなし、同月一〇日、工場長より債権者の要求は容れられない旨申渡されるやその職場を離れた。右認定に牴触する、債権者本人、債務者代表者本人尋問の結果は措信しない。右事実からすれば、債権者債務者間の雇傭関係は労働契約において当初からその職種地位が定められ、事務課長代理という地位は雇傭関係より発生する指揮命令に基づくものでなく、雇傭契約と不可分の関係に立ち、雇傭関係のみを存続させ事務課長代理という地位を自己の都合で任意に放棄するごときことはできないものと解するのが相当である。したがつて債権者の辞令を返却した行為は、自己の都合により雇傭関係を終了させようとする意思表示と解するのが相当である。表意者である債権者の内心の意思が雇傭関係をそのまま存続させる事務課長代理の地位のみを離れることを意図していたものとしてもこの表示行為により推断されるところは前認定の通りであり、表示により推断されるところと表意者の内心の意思との齟齬が存するときは、錯誤あるいは心理留保として表意者が保護される場合も存しないわけではないが、そのことは法律行為の解釈を左右するものでなく又債権者において内心の意思との齟齬については何等主張するところはない。
 そして、債務者が、同月一一日、債権者に対し、その退職を受諾する旨の意思表示をしたことは、当事者間に争いがなく、したがつて本件雇傭契約は、これによつて解約されたものである。