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ID番号 05443
事件名 雇用関係存在確認等請求控訴事件
いわゆる事件名 あけぼのタクシー事件
争点
事案概要  使用者の責に帰すべき事由により解雇された者が解雇期間中に他の職について賃金を得ていた場合につき、中間利益の控除の当否、その額が争われた事例。
参照法条 民法536条2項
労働基準法2章
体系項目 賃金(民事) / 賃金請求権の発生 / 無効な解雇と賃金請求権
裁判年月日 1988年10月26日
裁判所名 福岡高
裁判形式 判決
事件番号 昭和62年 (ネ) 241 
裁判結果 変更
出典 時報1332号142頁
審級関係 上告審/最高一小/昭62. 4. 2/昭和59年(オ)84号
評釈論文
判決理由 〔賃金-賃金請求権の発生-無効な解雇と賃金請求権〕
 二1
 〔中略〕
 原告両名は、なお被告と雇用関係にあり、本件解雇後昭和五三年三月一三日までの間、原告両名が被告の許で就労しなかったのは、法的に無効であった本件解雇によるものであるから、原告両名は被告に対し、右不就労の期間中の賃金及び一時金請求権を有するものというべきである。
 2 右のように、使用者の責めに帰すべき事由によって解雇された労働者が解雇期間中に他の職に就いて利益を得たときは、使用者は、右労働者に解雇期間中の賃金を支払うに当たり右利益(以下「中間利益」という。)の額を賃金額から控除することができるが、右賃金額のうち労働基準法一二条一項所定の平均賃金の六割に達するまでの部分については利益控除の対象とすることが禁止されているものと解するのが相当である(最高裁昭和三六年(オ)第一九〇号同三七年七月二〇日第二小法廷判決・民集一六巻八号一六五六頁参照)。したがって、使用者が労働者に対して有する解雇期間中の賃金支払債務のうち平均賃金額の六割を超える部分から当該賃金の支給対象期間と時期的に対応する期間内に得た中間利益の額を控除することは許されるものと解すべきであり、右利益の額が平均賃金の額の四割を超える場合には、更に平均賃金算定の基礎に算入されない賃金(労働基準法一二条四項所定の賃金)の全額を対象として利益額を控除することが許され、そして、右のとおり、賃金から控除し得る中間利益は、その利益の発生した期間が右賃金の支給の対象となる期間と時期的に対応するものであることを要し、ある期間を対象として支給される賃金からそれとは時期的に異なる期間内に得た利益を控除することは許されないものと解すべきである(本件上告審判決参照)。
 〔中略〕
 ところで、弁論の全趣旨によれば、被告における冬期一時金の計算期間は当年六月一日から一一月三〇日までの一八三日間であると認められるところ、本件上告審判決によれば、中間利益の控除の対象とされるべき賃金は、その支給対象となる期間が、当該中間利益を生み出した就労期間と時期的に対応していなければならず、それに対応しない期間の賃金部分から中間利益を控除することは許されないから、昭和五一年度冬期一時金として原告両名が被告から支払を受け得たはずの金員のうち、本件解雇前の期間及び解雇後被告の許で労働しえず、かつ、Aタクシーにも就労していなかった期間の労働に対する分、すなわち、本件解雇前の同年六月一日からAタクシーへの就職日前日の同年八月三一日までの九二日間の分は、中間利益の発生した期間と対応せず、したがって、これを控除の対象とすることのできないものというべきである 同様にして、昭和五三年度夏期一時金として原告両名が被告から加算した支払を受け得たはずであった金員のうち、被告の許で労働しえず、かつ、Aタクシーにも就労していなかった期間の労働に対する分、すなわち、Aタクシー退職日の翌日である同年二月一一日から被告の許への復職日前日の同年三月一三日までの三一日間の分は、原告両名が中間利益を得ることの出来なかった期間であるから、中間利益控除の対象とすることのできないものといわなければならない。