全 情 報

ID番号 05458
事件名 雇用関係不存在確認請求事件
いわゆる事件名 大阪木津市場事件
争点
事案概要  被解雇者を職場復帰させる旨の裁判上の和解にもかかわらず、職場復帰をさせないでした解雇につき、右和解条項に反し権利濫用にあたり無効とされた事例。
参照法条 労働基準法2章
民法1条3項
体系項目 解雇(民事) / 解雇権の濫用
解雇(民事) / 解雇と争訟・付調停
裁判年月日 1990年7月25日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成1年 (ワ) 2455 
裁判結果 棄却
出典 労働判例570号60頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-解雇と争訟〕
 原告が、被告の勤務不良等を理由に旧解雇をなしたこと、被告はこれを不服として解雇の無効確認請求訴訟を提起した原告との間で、昭和六二年六月一八日、本件和解が成立したこと、右和解条項中には、原告は、旧解雇の意思表示を撤回し、平成元年四月一日までに被告を現職場へ復帰する旨の条項及び被告が現職場へ復帰した後において、特にその勤務態度に関して通常の就業規則等よりも従業員たる被告にとってきびしい解雇条項(抗弁1(2)の【1】ないし【3】記載の条項)が存在すること、原告が、被告を一度も職場に復帰させることなく、平成元年二月一〇日付けの内容証明郵便で本件解雇の意思表示をなしたこと、以上の事実は当事者間に争いがない。
 右事実によれば、原告は、本件和解において、旧解雇の意思表示を撤回して被告を現職場へ復帰させることを約し、あまつさえ復帰後において被告の勤務態度が改善されない場合に備えた解雇条項までも取り決めたにもかかわらず、被告を一度も職場へ復帰させることなく、約定の復帰期限の直前になって本件解雇をなしたものであることが認められるのであるから、その解雇権行使は、客観的に合理的理由を欠き社会的に相当なものとして是認することはできず、他に解雇の合理性を裏付ける特段の事由がないかぎりは、解雇権の濫用として無効であるといわなければならない。
〔解雇-解雇権の濫用〕
 原告は、本件和解の際に、原告が被告に対し、原告会社に復帰するまで他の企業に就労し、通常の勤労者と同様に勤務する能力を身に付けるように強く要望し、被告もこれを了承したにもかかわらず、被告は、二年近くの間企業等への就労を一切なさなかった旨を主張する。
 〔中略〕旧解雇以前の被告の勤務態度には甚だ芳しからざるものがあったこと、これが原因となって先にのべた被告の復帰後の勤務態度に関する和解条項が定められたことが認められ、右事実からすると、原告が、本件和解の際に、原告会社に復帰するまでの被告の生活態度に関し、その主張のような要望をなしたであろうことは推認できる(これに反する被告本人尋問の結果は措信できない。)。また、〔中略〕被告が本件和解成立後企業等へ就労したことはなかったことが認められ、〔中略〕原告にとって、被告の右生活態度がその期待を裏切るものであったことも認められる。
 しかしながら、被告が、右原告の要望を了承したと認めるに足りる証拠はないこと、のみならず、復帰までの被告の生活の仕方・態度が直接的に本件和解条項に盛り込まれることがなかったことは原告も自認するところであること、さらに、前記のとおり本件和解条項においては、被告の現職場への復帰に条件は付されていないこと、また、復帰後の被告の勤務態度に関しきびしい解雇条項が定められたことからすると、本件和解における当事者間の合意の趣旨は、原告は、ともかく一旦は被告を現職場へ復帰させ、その後の勤務態度が旧解雇の以前と変わらなかったような場合に初めて右解雇条項に該当することを理由に解雇できると解するのが合理的であること等を併せ考えれば、被告が復帰までの生活態度において原告の期待を裏切ったとしても、その一事をもって、解雇の合理性を裏付ける特段の事由があったとまでは認められない。
 してみると、原告のなした本件解雇は、権利の濫用として無効というべきである。