全 情 報

ID番号 05521
事件名 損害賠償請求事件/債務不存在確認請求事件
いわゆる事件名 みくに工業事件
争点
事案概要  腕時計の針の中心線をインクで印刷する業務に従事していた下請け労働者が、右業務に使用する有機溶剤により中毒症にかかったとして、右業務の発注元である元請企業に対して損害賠償を請求した事例。
参照法条 民法709条
民法415条
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 安全配慮(保護)義務・使用者の責任
裁判年月日 1991年3月7日
裁判所名 長野地諏訪支
裁判形式 判決
事件番号 昭和61年 (ワ) 120 
平成2年 (ワ) 110 
裁判結果 一部認容,一部棄却
出典 労働判例588号64頁/労経速報1444号7頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-安全配慮(保護)義務・使用者の責任〕
 本件印刷業務につき被告とA製作所とは元請・下請の関係にあり、被告は、右業務を発注するに当たって、被告工場内において、同製作所の従業員に対し右業務の作業手順を研修指導していること、被告の外注担当者は、発注後約一か月は毎日、その後は一週間に一、二日程度日程管理及び品質管理の指導に同製作所に赴いていること、被告は同製作所に対し、本件印刷業務に必要な機械器具、備品及び治工具を無償で貸与し、A―ベンジンとインクを支給したこと、被告は、昭和三九年五月以降ノルマルヘキサンを使用する業務である腕時計針の印刷業務を遂行してきているのに対し、A製作所は、本件印刷業務を下請けするまで右業務の経験はなく、第二種有機溶剤を使用する業務を行った経験もないことなどの前記認定事実を総合すると、被告とA製作所とは、本件印刷業務については実質的な使用関係にあるものと同視し得る関係にあったものと認めるのが相当である。そして、A―ベンジンに含有されているノルマルヘキサンは第二種有機溶剤に指定されていて、その取扱いについては法及び予防規則等によって厳格に規制されているのであるから、被告は、ノルマルヘキサンの有害性及びその対策の必要性について十分認識し、本件印刷業務に従事するA製作所の従業員が被告の支給するA―ベンジンによって中毒症状を起こすことのないよう、同製作所に対し、請求原因3(一)(1)記載の措置を講ずるように指示ないし指導をなすべき注意義務があったものというべきである。
 しかるに被告は、ノルマルヘキサンが人体に対し強い毒性を有することやその対策の必要性について気付かないままA―ベンジンをA製作所に支給し、前記指示ないし指導をしなかったものであって(被告は同製作所に対し、昭和五八年三月七日付けの「特殊健康診断について」と題する文書(証拠略)を交付しているが、その内容からいって、特殊健康診断の法的必要性を指導しているものとは認められない。)、被告の右過失により、同製作所は、本件印刷業務に使用していた溶剤の有毒性やこれに対する対策の必要性についての認識を欠き、局所排気装置を設置せず、十分な気積を確保しなかったなどのために、原告らのノルマルヘキサン吸引による多発神経炎に罹患したのであるから、被告は、民法七〇九条により、原告らが被った損害を賠償すべき義務があるものというべきである。