全 情 報

ID番号 05529
事件名 給与減額分支払等請求事件
いわゆる事件名 沖縄県(船浦中学校)事件
争点
事案概要  教研集会参加のために町立中学の教諭が年休の時季指定をしたのに対して、校長がなした時季変更権の適法性が争われた事例。
参照法条 労働基準法39条4項
体系項目 年休(民事) / 時季変更権
裁判年月日 1991年3月27日
裁判所名 那覇地
裁判形式 判決
事件番号 平成1年 (ワ) 50 
裁判結果 一部認容,一部棄却
出典 労働判例587号28頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔年休-時季変更権〕
 時季変更権の行使が適法であるためには、客観的に労働基準法三九条四項ただし書所定の事由が存在することが必要であるところ、同法三九条四項ただし書にいう「事業の正常な運営を妨げる」事由の存否は、事業の規模、内容、当該労働者の担当する作業の内容、性質、作業の繁閑、代行者の配置の難易、時季を同じくして年休を請求する者の人数等諸般の事情を考慮して客観的に、かつ、年休制度の趣旨に反しないよう合理的に決すべきである。
 〔中略〕
 週のうちに各教科がバランスよく配置されることが生徒の学習の負担や教師の負担を適正に維持し、生徒の学習意欲及び指導効果を上げるためには望ましく、本来の週時間割もそのような点に配慮して作成されたものであることにかんがみれば、交換授業の実施により授業科目に極端な偏りが相当期間にわたって生じるときは、生徒及び教師に過重な負担をかけ、生徒の学習意欲及び指導効果を阻害することとなって学校教育の円滑適正な運営を妨げる結果となるから、このような場合には「事業の正常な運営を妨げる」事由があるものといわざるを得ない。
 〔中略〕
 けれども、原告はAと共に約一か月前から年休を取る旨被告Yに申し入れ、約一週間前には同僚の教諭の了解を得て、右「交換時間割」を作成してこれを被告Yに示しており、交換授業に伴うおかえし授業もAは事前に済ませ、原告は事後に行うこととしていたのであって、原告はその年休取得に際し授業その他学校運営に与える影響をできるだけ少なくすべくAと共に必要な措置を講じていたものと評価でき、実際にも原告及びAの欠務期間中右「交換時間割」により授業は混乱なく行われたものである。
 (五) そうして、右「交換時間割」によれば、一日に同一学年で同じ科目が二時数となるものも多数見受けられるが、実技科目を除いては、一日に二時数同一科目が連続することはなく、ほとんどが午前一時数と午後一時数に振り分けられているし、個々の科目の時数の増減をみても、二年の理科、一、二年の体育の増加が著しいものの、その他については従来の交換授業の実施に際しても生じたことがある程度のものであり、当該週の授業が全く行われない科目は九科目(道徳、学活を除く)中二科目(一、三年)ないし三科目(二年)にとどまっているのである。
 (六) 以上の諸事実を勘案すれば、その後のおかえし授業における授業時数の変動を考慮にいれても、右「交換時間割」の実施による授業時数の変動は、生徒に過重の負担を与え、学習意欲及び教育効果を阻害する具体的なおそれを生ずる程度のものとはいい難いと考えられる。
 そして、右「交換時間割」の実施については、他の教諭の了解をあらかじめ得ているのであり、これにより生ずる教諭の授業時数の増加もさほどではないことからすれば、教諭の負担の増加により授業その他学校運営に支障を生ずる具体的なおそれもなかったものといえる。
 そうして、原告の年休の請求にかかる期間中に残りの四名の教諭の中から欠務者が出ることが具体的に予想される状況にあったとも証拠上認められない。
 また、原告の年休取得により文化祭その他の学校行事の実施等にも具体的な支障が生ずるおそれが存したとも認め難い。
 3 以上によれば、結局、原告が勤務しなかった右四日間について、原告の年休取得によってB中の事業の正常な運営を妨げる事情があったものと認めることはできないものといわざるを得ない。したがって、被告Yの原告に対する時季変更権の行使はその要件を欠き無効であるから、原告には右四日間について年休が成立し、就労義務が消滅することとなる。