全 情 報

ID番号 05530
事件名 療養の費用等不支給処分取消請求事件
いわゆる事件名 新発田労基署長(朝日村)事件
争点
事案概要  村の共有林の伐採作業に従事していた者がかかった振動障害について労働者として休業補償給付を請求した事例。
参照法条 労働基準法9条
労働者災害補償保険法1条
体系項目 労基法の基本原則(民事) / 労働者 / 労働者の概念
裁判年月日 1991年3月29日
裁判所名 新潟地
裁判形式 判決
事件番号 昭和62年 (行ウ) 5 
裁判結果 棄却
出典 労働判例589号68頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労基法の基本原則-労働者-労働者の概念〕
 労災保険法において、保険給付の対象となる労働者の定義に関する規定はないが、同法が労基法の規定する使用者の労災補償責任を保険化したものであることから、労基法の規定する労働者と同一に解するのが相当である。
 労基法九条は、労働者を職業の種類を問わず、同法八条の事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者を労働者と定義している。これは、要するに使用者との使用従属関係の下に労務を提供し、その対価として使用者から賃金を得る者を指すものと解すべきである。
 〔中略〕
 (1) A部落の共有林伐採作業は、原木の伐採、集材機などによる集運、玉切りの各作業を五ないし八名の者で行なっていたが、同作業に従事する者は、同部落の住民(ただし、昭和五五年から他部落のBが参加)だけであった。そして、玉切りされたチップ材はC工業によってトラックで運ばれた。
 Dは、昭和四四年頃から昭和五三年頃まで同部落の共有林伐採作業に従事し、チェーンソーを使用して原木の伐採、玉切りをしていた。
 なお、Dらは、A部落の共有林以外の伐採作業をしていたことはなかった。
 (2) 同部落の伐採作業は、毎年六月頃から一〇月頃までの間行われていた。初めに同部落の伐採作業に参加する住民らが集まり、その年の伐採地域などを決定し、代表者(リーダー)を選び、代表者が伐採作業に従事した者の出面帳を管理し、C工業から支払われる金銭の受け取り、右金銭の分配などをし、共同作業の世話役、取りまとめ役となった。
 (3) 伐採作業は、Dら作業に従事する部落住民が午前八時頃集まって、伐木作業、集材機械の操作、玉切り作業など分担を決め、共同して作業を行い、作業に従事した者を出面帳に記入していた。なお、同作業に従事する者の間に不公平がないように作業分担は適宜交代していた。
 (4) C工業の代表者やその従業員は、伐採作業現場において伐採作業についての具体的な指揮や監督をすることなく、棚(玉切りされた伐木の束)となったチップ材をトラックで運んでいった。なお、C工業の代表者が同部落に行った際、伐採作業に従事していた者に対して怪我をしないように注意したことはあったが、伐採作業をどのようにすべきかを具体的に指示したことはなく、これをもって安全確保の指示があったということはできない。
 (三) C工業との契約
 (1) DがA部落の共有林の伐採作業に従事していた昭和五三年以前において、同部落の住民とC工業との間で雇用契約書を取り交わしたりしたことはなく、C工業は同部落の伐採作業に従事する住民を自社の労働者として賃金台帳その他の帳簿に記載したり、源泉徴収をしたこともなかった。
 (2) 同様にC工業とA部落の住民との間で同部落の共有山林の伐採の請負契約書を取り交わしたことはなく、同部落の共有林のどの地域を伐採するのか、どれ位の量のチップ材を出すのかは、同部落住民で決定していた。また、C工業は、同部落から当該年度の伐採予定地域の立木をいくらで買い受けるかを決めていなかった。
 (四) 作業の資材等の負担
 A部落の住民が伐採作業を始めた昭和四四年、同部落で集材機、ワイヤー、キャリング、滑車などを購入し、チェーンソーは作業員各自の所有物を使用していた。C工業から集材機を借りて伐採作業をしたこともあったが、ワイヤー、油などの消耗品はすべて同作業従事者の負担であり、同集材機もその後C工業から同部落へ売却された。
 (五) C工業の支払金
 A部落の伐採作業に従事する者全員とC工業の代表者は、毎年の作業を開始する前に、当該年のチップ材の棚の単価、引き渡す予定の総棚数などを話し合って決めていた。
 C工業からの支払金は、年三ないし四回に分けて伐採作業従事者の代表者に交付された。C工業は、その年度の最終支払時において、C工業に引き渡された棚数にその単価を乗じて得た金額から前払金など既に分割して支払われた金額と作業に使った機材、用具の立替金などを清算控除して同代表者に一括して支払った。
 同代表者は、受け取った金員の一部を部落共有林の代金(山代金)として同共有者らに分配して支払い、その余については、最終支払時以外において作業従事者全員に平等に分配し、最終支払時において出面(出勤簿)に応じて各作業従事者に清算して分配した。
 2 以上の事実によれば、DらA部落の住民は主体的かつ自主的に部落共有林の伐採作業を共同して行い、伐採した木材をチップ材としてC工業に売り渡し、その代金を部落住民らで分配していたものというべきであり、DかC工業に雇用されて伐採作業に従事したものではなく、Dら同部落住民がC工業から共有林の伐採と玉切りを請負ったものではないと認めるのが相当である。
 したがって、Dは、A部落の共有林伐採作業に関して、C工業の使用従属関係の下に労務を提供し、その対価としてC工業から賃金を得ていたものということができない。
 3 訴外E、同Fらが昭和五五年以降C工業と明示的に雇用契約を結んだが、従前の作業と同じ内容、条件で伐採作業に従事して、同訴外人らは労災保険給付を受けていたとしても、前記のとおりDに労働者性が認められない以上、Dに労災保険給付を支給することはできない。