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ID番号 05662
事件名 損害賠償請求控訴事件/同附帯控訴事件
いわゆる事件名 日立造船事件
争点
事案概要  失火による船舶火災事故の消化に際して、ガス中毒死した労働者の遺族が造船会社に対して損害賠償を請求した事例。
参照法条 民法709条
民法722条2項
船員保険法50条3項
船員保険法25条
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 安全配慮(保護)義務・使用者の責任
労災補償・労災保険 / 損害賠償等との関係 / 労災保険と損害賠償
裁判年月日 1974年9月18日
裁判所名 東京高
裁判形式 判決
事件番号 昭和48年 (ネ) 1894 
昭和48年 (ネ) 2680 
裁判結果 一部認容,一部変更(確定)
出典 時報766号59頁
審級関係 一審/東京地/昭48. 9. 5/昭和45年(ワ)12648号
評釈論文
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-安全配慮(保護)義務・使用者の責任〕
 本件溶接工事の施行にあたっては、その現場作業の指揮にあたる専門的立場のAにおいて、工事施行の安全を期するために施行個所およびその周辺の構造、材質、施設等を周到に調査検分して確認すべきであり、その方法としては、それらを知悉していると思われる船長または一等航海士その他責任のある乗組船員らにも協力を求め、それらの状況についての予備知識をえたうえで、たんなる目測や歩測に頼ることなく、巻尺その他の計測器具を用い、補助者とともに内外相呼応して合図しあうなどの手段があり、それらの調査検分ないし確認の場所に光源が乏しい場合にはなお一層強力な光源を持ち込むなどして入念周到に検分ないし確認を行なうべきである。そして、《証拠略》によれば、本件溶接工事の作業にあたった作業員はA以下一〇余名であったことがうかがわれ、当事者双方の主張に現われている作業現場の状況からすれば、以上の措置をいかに入念に行なっても極めて短時間内にそれを終り、そのために格別の労力を増すともいえないことが明らかであるにもかかわらず、それらの措置をとることなく、引用にかかる原判決認定のとおり施行個所の裏側位置の誤認、構造材の可燃性の見落しなどをし、それが原因となって引火を招いたのは、Aの職務上の重大な過失というのほかはない。
 〔中略〕
 本件事故の発生につき、Bにも過失があったことはすでに判断したところであり、以上認定の事実のもとでは(一等航海士で本件船舶の消火活動を行なうべき職務を有したBが呼吸具を装着しないままで再度火災現場に突入した相当重大な過失のあることをも併せ考慮して)、その過失の割合はA、Bとも各二分の一(五対五)と認めるのが相当である。
〔労災補償・労災保険-損害賠償等との関係-労災保険と損害賠償〕
 (イ) 代位の対象となるべき損害賠償請求権の範囲について考えるのに、本件の場合、第一審原告Xは第一審被告に対しBの逸失利益の全額について損害賠償請求権を有するのではなく、過失相殺により、その二分の一の金額についてのみ損害賠償請求権を有しているから、代位の対象となるべき損害賠償請求権の範囲は、前記給付合計額の二分の一に相当する一一五万四、九三〇円にとどまると解するのが相当である(原判決書二四丁表一行目冒頭より同丁表八行目の「相当である。」までの部分を以上のとおり訂正する)。
 (ロ) 右のとおり、本件代位については、すでに給付を受けた分にとどめ、将来支給されるべき分をも控除すべきでなく、また代位の対象となるべき損害賠償請求権の範囲については、過失の割合によって限定すべきであり、保険給付の全額について代位を認められるべきでないとする理由は、引用にかかる原判決書理由の示すところのほか、受給者が将来死亡その他の理由で右年金の受給資格を失った場合に、もし将来にわたる年金額をも右代位の対象とすると、その事後処理が複雑で不合理になること、同年金は、保険対象の船員および雇主らに過失があると否とを問わず支給されるものであることを考慮すれば、その理由が一層明らかである。