全 情 報

ID番号 05686
事件名 障害等級決定取消請求事件
いわゆる事件名 玉名労働基準監督署長(三新建設有限会社)事件
争点
事案概要  労災保険法の障害補償の障害等級の認定について、同一部位に一二級の一二に相当する神経障害と一〇級の一〇に相当する機能障害が併存している場合に、障害等級の繰上げをするかどうかが争われた事例。
参照法条 労働者災害補償保険法施行規則14条
体系項目 労災補償・労災保険 / 補償内容・保険給付 / 障害補償(給付)
裁判年月日 1976年3月22日
裁判所名 熊本地
裁判形式 判決
事件番号 昭和47年 (行ウ) 16 
裁判結果 認容
出典 タイムズ346号337頁/訟務月報22巻4号1043頁
審級関係 上告審/05690/最高一小/昭55. 3.27/昭和53年(行ツ)142号
評釈論文 佐藤進・ジュリスト664号163頁/水野勝・社会保障判例百選〔別冊ジュリスト56号〕140頁
判決理由 〔労災補償・労災保険-補償内容・保険給付-障害補償(給付)〕
 (一) そもそも、規則第一四条において、障害の系列を異にする障害が二以上ある場合において、原則として、重い方の身体障害の障害等級をその複数の身体障害の障害等級とすると定めた(第二項)のは、このような場合に適当な障害等級を定めることが困難を伴うためであると推則される。しかるに、同条第三項において、前記のとおり第一三級以上に該当する身体障害が二以上あるときに、重い方の等級を一級繰り上げることとするよう例外を定めたのは、障害が右の程度に達すれば、重い方に吸収して切捨てることは不適当であるからとの配慮により前記同条第二項の原則を修正したものと解するのが相当である。
 (二) そうだとすれば、本件のように、原告の右膝関節に第一〇級の機能障害と第一二級の神経障害が併存している場合には、たとえ神経障害が機能障害から派生し、付随するものであるとしても、右の神経障害を機能障害に吸収せしめることには、多大の疑義がある。けだし、まず、右のように解釈することは、前記規則が明定した第一三級以上の障害が併存する場合の等級の一級繰り上げを明文を置かずに適用除外例を設けるに等しいことになるおそれがある。
 (三) のみならず、そのような法解釈には次のような難点が考えられる。すなわち、前記通達およびいわゆる公定解釈が示すように、外傷等による機能障害があれば、同一部位に第一二級または第一四級程度の神経障害が通常付随するから、そのうち重い障害を選択すれば足りるということであれば、重い機能障害の等級の中に軽い神経障害のそれが、あるいは重い神経障害の等級の中に機能障害のそれがそれぞれ組み込まれるか、これを綜合斟酌しうる仕組みになつていなければならない筈である。しかし、前記施行規則の別表を通覧しても、機能障害と神経障害相互の間にかような関連性ないし綜合認定の可能性を見出すことはできないし、また、そのような趣旨を定めた規定も存しない。また、機能障害と神経障害とは系列を異にする障害であるから、前者の認定にあたり、後者の程度を斟酌するという関係にあるとは考えられない。もつとも、証人Aの証言中には、両者を綜合して等級を認定しうるような口吻を洩らしている部分があり、また、〈証拠略〉には、原告の障害につき、機能障害を第一〇級の一〇、神経障害を第一二級の一二とそれぞれ分別して判定しながら、両者は別個の障害としてとらえることなく、最も重い障害等級により認定されるべきである旨の所見を付していることが認められるが、同人の証言によれば、同人は同一部位の障害の併合吸収に関する前記通達を参考にして前記のような証言および所見を述べていることが明らかであるから、右証言および所見をもつて、原告の右神経障害が機能障害の等級判定に斟酌されたとは認められない。
 (四) さらに、同一部位における神経障害が機能障害に由来するとしても、第一〇級程度の機能障害があれば、常に神経障害が伴うとは限らず、これが残らない場合、残つても、第一四級程度あるいはこれに達しない程度の場合も考えられる反面、第一二級程度の頑固な神経障害が残ることも考えられる(この点は、〈証拠略〉からも窺われる。)そして、被告のいわゆる公定解釈によれば、第一二級の疼痛は労働には通常差支えないが、時には強度の疼痛のため、労働にある程度差し支える場合に判定すべきものとしていることが、〈証拠略〉によつて推認されるから、たとえ同一部位に神経障害を伴う場合でも、第一二級程度の疼痛は労働能力の減少という観点からみて無視するのは妥当でない。しかも、右神経障害と機能障害とを併合して一級繰り上げても、障害の序列を乱すとは考えられない。
 (五) かようにみてくると、同一部位に第一三級以上の機能障害と神経障害とが併存する場合においては、たとえ両者の間に主従ないし派生関係が認められるとしても、重い障害等級に吸収してしまうことは、取りも直さず、無視さるべきでない程度の障害を無視する結果を招くことになり、規則第一四条第三項の一級繰り上げの法意に反する違法な法解釈といわざるをえない。
 してみれば、被告が原告の右膝関節部の機能障害を第一〇級の一〇、神経障害を第一二級の一二と認定しながら、繰り上げの障害等級を認定せず、重い第一〇級の一〇に該当するとして同等級による保険給付の決定をしたことは、結局法令の解釈を誤つて違法な行政処分をしたものというべきである。