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ID番号 05707
事件名 戒告処分取消請求事件
いわゆる事件名 愛知県教育委員会事件
争点
事案概要  校長の承認なく夏期厚生計画に参加すると主張して半日勤務を欠いた小学校教諭に対する県教育委員会の戒告処分の効力が争われた事例。
参照法条 地方公務員法29条
地方公務員法32条
地方公務員法35条
地方公務員法42条
日本国憲法31条
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 業務命令拒否・違反
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒手続
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒権の限界
裁判年月日 1990年5月28日
裁判所名 名古屋地
裁判形式 判決
事件番号 昭和62年 (行ウ) 5 
裁判結果 棄却(控訴)
出典 タイムズ741号147頁/労働判例577号62頁
審級関係 上告審/最高二小/平 4. 1.24/平成3年(行ツ)107号
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒権の限界〕
 地方公務員につき地公法に定められた懲戒事由がある場合に、懲戒処分を行うかどうか、懲戒処分を行うときにいかなる処分を選ぶかは、懲戒権者の裁量に任されているものと解され、懲戒権者が右裁量権の行使としてした懲戒処分は、それが社会観念上著しく妥当性を欠いて裁量権を付与した目的を逸脱し、これを濫用したと認められる場合でない限り、その裁量権の範囲内にあるものとして、違法とならないものというべきである。
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-業務命令拒否・違反〕
 原告の本件行為は、こうしたA校長の態度に対する抗議としての側面をも有するのであり、この点は本件処分の適法性の有無を判断するに当たって無視することはできない。しかしながら、その点を考慮しても、具体的にA校長がした本件不承認処分は前述のとおり適法なものであり、他方、同校長は原告に対し勤務に就くよう説得したにもかかわらず、原告はこれを無視して勤務を欠いたものであること、原告は、職務専念義務が免除されないことを認識しながら、あえて、適法に夏期厚生計画に参加することができないことに対する抗議の意味を込めて本件行為に出たものであり、夏期厚生計画本来の目的という観点からは、これに参加すべき実質的な理由が希薄であったことが窺えることなどの事情に鑑みると、被告の本件処分が社会通念上著しく妥当性を欠くものとまでいうことはできない。
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒手続〕
 地公法二九条に基づく懲戒処分を行うに当たり、条例等によりその手続が規定されていない場合においても、懲戒処分の不利益処分としての性質に鑑み、憲法三一条の趣旨に則り適正な手続の保障がされるべきであり、原則として被処分者に対し告知と聴聞の機会を与える必要があるものと解される。そして、右手続を履践しないで懲戒権を行使した場合には、懲戒処分の不利益性の程度、右手続を履践しなかったことが懲戒処分の基礎となる事実の認定に影響を及ぼし、ひいては処分内容に影響を及ぼす可能性の程度を総合勘案し、右程度が著しい場合には裁量権の濫用となり、懲戒処分が違法となる場合もあるというべきである。
 しかしながら、本件においては、本件処分は戒告処分であり、地公法上懲戒処分として規定された処分の中では最も程度の軽いものであること、懲戒事由としての原告の本件行為は、A校長の面前で行われたものであり、懲戒処分の基礎となる事実の存否については原告もこれを争っておらず、右手続の履践を欠いたことにより右事実の認定に影響を及ぼす可能性はなかったこと、被告は原告に対し、本件処分を告知する際、辞令及び処分説明書を交付して、本件処分の基礎とされた事実及び適用法令を明示したことが認められる。
 右事実によれば、被告が原告に対し、本件処分に際し、告知と聴聞の手続の履践を欠いたことにより本件処分が裁量権の濫用として違法となるものということはできない。