全 情 報

ID番号 05712
事件名 療養費一部分不支給処分及び公務外災害処分取消請求事件
いわゆる事件名 地方公務員災害補償基金東京都支部長(養育院付属病院)事件
争点
事案概要  養育院付属病院の看護婦が、胃潰瘍、十二指腸潰瘍につき公務災害でないとした地方公務員災害補償基金支部長の処分の取消等を求めて争った事例。
参照法条 地方公務員災害補償法26条
地方公務員災害補償法27条
体系項目 労災補償・労災保険 / 補償内容・保険給付 / 療養補償(給付)
労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 職業性の疾病
裁判年月日 1990年6月15日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和58年 (行ウ) 35 
裁判結果 棄却
出典 労働判例564号24頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労災補償・労災保険-補償内容・保険給付-療養補償(給付)〕
 法により補償される損害の範囲は、公務上の災害に起因して生じた疾病による損害でなければならないが、右損害のすべてが補償されるわけではなく、法二七条の定める療養の範囲に該当し、かつ療養上相当なものでなければならない。ある疾病について、社会通念上必要と認められる費用とか、医師が必要であると認め、かつ相当性のあるものなどがこれにあたることとなる。
 療養の範囲に属する宿泊費は、たとえば遠隔の他の病院へ転送を必要とする場合の宿泊料が該当することは明らかである。
 これを本件についてみるに、原告が請求した宿泊費は、同年一月二六日から同月二九日までのA旅館(静岡県三島市(略))及び同年四月二八日から同年五月一日までのB館(同市栄町二番三二号)の各宿泊費であり、原告が公務上災害である腰痛症の治療のため支出した費用であると認められる。しかしながら、弁論の全趣旨によれば、原告は、当時東京都板橋区に居住していたこと及び原告が右各旅館から通院ないし入院したとされるC病院が同県駿東郡清水町に、また、D整形外科医院が同県三島市(略)にそれぞれ所在していることが認められるところ、原告が右居住していた東京都板橋区から遠隔地であるC病院及びD整形外科医院において治療を受けなければならない合理的な理由は認められない。
 したがつて、右各宿泊費が、原告の公務上災害である腰痛症の治療のため必要であり、かつ、相当であるものと認めることはできない。
〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-職業性の疾病〕
 原告の右調査研究が、原告の胃・十二指腸潰瘍の発症をきたすほど過重なものであったということはできない。
 (二) 原告は三交替勤務に従事していたが、その職務が特に過重であったということはできない。原告の症状が出た昭和五一年一二月当時は、前記の公務災害である腰痛症による休暇等があり、平常勤務した日数は特に少なく、原告の右発症の直前の看護業務は、過重ではなかった。
 (三) 原告は、昭和五二年一月一〇日胃内視鏡検査を受けたが、異常が発見されず、著変はなく、胃体小弯下部にすでに瘢痕化した胃潰瘍の跡が認められた。また、原告は、昭和五一年一二月二二日以降職務を離れている。しかるに、前記のとおり、原告は、その後胃潰瘍、十二指腸潰瘍と診断されているのであり、このことは、原告の右疾病が、原告の職務と関係のないことを示している。
 (四) 原告の前記研究、勤務、職場環境等がストレスとして原告に働いたことも認められるが、原告の人格的、性格的要因が強く働いて、胃潰瘍等になったものと認められ、原告を診察した付属病院の医師稲松孝思は、心因性の要因の強い急性ストレス潰瘍であると診断している。
 以上認定の原告の業務の内容及び程度、看護研究の性格及び原告が行った研究業務の程度、発症の時期及びその後の経過等、原告の業務が他の看護婦に比べ特に負担となったものと認めることはできないこと等を総合すると、原告の看護業務及び看護研究委員としての仕事が、原告に胃・十二指腸潰瘍を発症させるほど、肉体的、精神的に過重なものであったということはできず、原告の胃・十二指腸潰瘍が、原告の業務と相当因果関係があるものと認めることはできない。
 したがって、原告の胃潰瘍・十二指腸潰瘍が公務に起因したものと認めることはできないから、これを公務上災害と認定しなかった本件公務外認定処分は、適法である。