全 情 報

ID番号 05739
事件名 分限免職処分取消請求事件
いわゆる事件名 長崎県教育委員会事件
争点
事案概要  学校長の再三の命令にもかかわらず、児童に対する「観点別学習状況」の評価を行なわなかつた小学校教諭に対してなされた免職処分の効力が争われた事例。
参照法条 地方公務員法28条1項
体系項目 解雇(民事) / 解雇事由 / 業務命令違反
裁判年月日 1990年12月20日
裁判所名 長崎地
裁判形式 判決
事件番号 昭和56年 (行ウ) 4 
裁判結果 棄却
出典 労働判例577号6頁/判例地方自治91号26頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-解雇事由-業務命令違反〕
 本件分限免職処分は、地公法二八条一項一号(勤務実績がよくない場合)及び同三号(その職に必要な適格性を欠く場合)に該当するとしてなされたものであるところ、同三号の「その職に必要な適格性を欠く場合」とは、当該職員の簡単に矯正することのできない持続性を有する素質、能力、性格等に起因してその職務の円滑な遂行に支障があり、または支障を生ずる高度の蓋然性が認められる場合をいうものと解されるが、この意味における適格性の有無は、当該職員の外部にあらわれた行為、態度に徴してこれを判断するほかはなく、その場合、個々の行為、態度につき、その性質、態様、背景、状況等の諸般の事情に照らして評価すべきことはもちろん、それら一連の行動、態度については相互に有機的に関連づけてこれを評価すべく、さらに当該職員の経歴や性格、社会環境等の一般的要素をも考慮する必要があり、これら諸般の要素を総合的に検討したうえ、当該職に要求される一般的な適格性の要件との関連においてこれを判断しなければならないのである(前掲最高裁判決参照)。
 そこで、原告が右一号及び三号に該当するかについて検討するに、前記第二ないし第四で認定したように、原告は、五島在勤時原告が勤務していたA小において、昭和五〇年度、同校B校長が原告の提出した自宅研修承認願を承認していないにもかかわらず、帰宅してその職務を放棄し、また、昭和五〇年六月一四日から昭和五二年三月末までの間、一年一〇か月にわたって一切出勤簿に押印せず、長崎市在勤時においては、昭和五三年度、C小で行われる予定であった学校訪問に際し、同校D校長らの職務命令及び指導に従わず、学校訪問及びその公開授業に重要な役割を有する指導案を提出せず、右学校訪問を延期ないし中止するに至らせ、それにより、懲戒戒告処分を受けた後も、翌五四年度E小において行われた学校訪問においても、同校F校長の指導案提出に関する職務命令及び指導に従わず、昭和五五年度には、E小において原告が担任した学級児童の指導要録のうち第二学年の「各教科の学習の記録、2観点別学習状況」欄の、原告の担当する五教科について、同校G校長及び後任のH校長らの命令ないし指導に従わず、その評価、記入を行わずに放置するなど、原告は昭和五〇年度以降本件処分に至るまで、再三再四にわたって故意に職務上の義務を拒否し、職務上の上司であった歴代校長の職務命令及び職務に関する指導に反抗して従わなかった事実が認められるのであって、これらの各事実を総合的に見ると、そこには、原告の、職務上の命令及び指導に服さず、自己の主張や見解に固執するなどの独善的で反抗的な性格傾向や性癖が一貫してうかがわれるのみならず、原告が、第二の六で要約したように、教育の重要な一環である指導要録の観点別学習状況の評価、記入を放置したり、はては、空欄は評価の結果であり全員が全観点について「おおむね達成」と評価されたと強弁したりすることは、教育にたづさわる者としての適格性に重大な疑念をもたらすものといわなければならない。
 しかして、児童の教育指導に携わる教育公務員の適格性は、単に学科の指導面のみならず、児童の人としての成長を見守る包容力、多くの児童の師となるべき公正さ、父兄との信頼関係、独善に陥ることなく常に研究と修養に努め向上をめざす意欲や柔軟さなど様々な面において高い水準のものが要求されることはいうまでもないことであり、先に見たような原告の外部に現れた個々の行為や態度を、その性質、態様、背景、状況等諸般の事情に照らして評価した場合、原告には、簡単に矯正することのできない持続性を有する素質、性格等に起因して、教育公務員としての職務の円滑な遂行に支障があることの徴表があるということができ、原告はその職に必要な適格性を欠いているとする任命権者である被告の判断を不合理なものとまでいうことはできない。〔中略〕
 分限処分が、分限制度の目的と関係のない目的や動機に基づいてされた場合、考慮すべき事項を考慮せず、考慮すべきでない事項を考慮して処分理由の有無が判断された場合、あるいはその判断が合理性をもつ判断として許容される限度を超えた不当なものである場合、裁量権の行使を誤ったものとして違法となる。
 しかしながら、前記二で検討したような本件処分事由は、原告の簡単に矯正することのできない持続性を有する素質、性格等に起因してその職務の円滑な遂行に支障がある場合に該当するというものであって、一方で原告が主張するように、原告がその教育実践の結果、多くの児童、父兄等から評価され、各種研究、研修会にも参加、発表してきたり、あるいは、現在では押印拒否やE小においてI指導主事に対してとった言動などについて反省している旨述べていることなどを十分考慮しても、なお、被告が、原告には教員としての適格性そのものを欠くとしてなした本件分限免職処分が合理性をもつ判断として許容される限度を超えた不当なものであって裁量権を逸脱または濫用したものと認めることはできない。