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ID番号 05794
事件名 懲戒処分取消請求事件
いわゆる事件名 東京都教育委員会(都立日比谷高校)事件
争点
事案概要  教育庁主催の研修会に対する妨害行為を理由として懲戒戒告処分を受けた定時制高校の教員がその効力を争った事例。
参照法条 地方公務員法29条1項
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒権の限界
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 暴力・暴行・暴言
裁判年月日 1991年9月9日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成1年 (行ウ) 55 
裁判結果 棄却
出典 時報1404号125頁/労働判例595号33頁/判例地方自治90号52頁/法律新聞1031号6頁
審級関係
評釈論文 坂本重雄・判例評論402〔判例時報1421〕204~207頁1992年8月1日
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-暴力・暴行・暴言〕
 被告は都立学校教員の任命権者であり、地方公務員法三九条一項、二項、教育公務員特例法一九条、二〇条、地方教育行政の組織及び運営に関する法律二三条八号により適法に教員の研修を行なうことができるものであるから、一般的に研修への参加を強制できるものと解すべきである。もちろん、教員の研修については教員の自主性を尊重することも重要であるから、職務命令を出して出席を強制することは慎重でなければならず、場合によっては出席を強制された当該教員との関係では当該命令が違法となる余地もありうると解される。しかしながら、それは、あくまでも命令を受けた当該教員との関係で当該職務命令が違法となるにとどまり、研修の開催自体が違法になるとは到底解されない。したがって、研修の妨害が許されないことは当然であり、本件研修会を妨害した原告の行為が違法であることも当然である。原告の主張は採用できない。
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒権の限界〕
 原告に対する懲戒処分の程度について判断するに、地方公務員に懲戒事由がある場合に、懲戒権者が当該公務員を懲戒処分に付すべきかどうか、また、懲戒処分をするときにいかなる懲戒処分を選択すべきか決するについては公正でなければならないことはもちろんであるが、懲戒権者は懲戒事由に該当すると認められる行為の原因、動機、性質、態様、結果、影響等その他諸般の事情を考慮して、懲戒処分に付すべきかどうか、また、懲戒処分をする場合にいかなる処分を選択すべきかを決定できるのであって、それらは懲戒権者の裁量に任されているものと解される。したがって、右の裁量は恣意にわたることを得ないことは当然であるが、懲戒権者が右の裁量権の行使としてした懲戒処分は、それが社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権を付与した目的を逸脱しこれを濫用したと認められる場合でない限り、その裁量権の範囲内にあるものとして違法とならないものというべきである(最高裁判所昭和五二年一二月二〇日判決民集三一巻七号一一〇一頁参照)。
 これを本件についてみるに、原告は、前記二で認定した如く、教員の研修につき公開の原則を主張して本件研修会の傍聴を要求し、制止を無視して実力で研修会場に入ろうとしたものであるが、原告の行為の原因、動機、性質、態様、結果、特に原告らの行為により現実に受付が妨害されるという実害が発生していること、他方、戒告は懲戒処分の中では一番軽い処分であること(地方公務員法二九条一項本文)、その他の諸般の事情を考慮すると、原告に対する本件懲戒処分が社会観念上著しく妥当を欠くものとは思われず、被告が懲戒権者に任された裁量権の範囲を越え、これを濫用したものと判断することはできない。