全 情 報

ID番号 05830
事件名 休業補償給付支給処分取消請求控訴事件
いわゆる事件名 仙台労働基準監督署長事件
争点
事案概要  寒冷時に高所作業に従事するとび職に発症した動脈瘤破裂によるくも膜下出血につき、業務災害でないとした労働基準監督署長の処分が争われた事例。
参照法条 労働基準法施行規則35条
労働基準法施行規則別表1の2第9号
体系項目 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 脳・心疾患等
裁判年月日 1991年11月27日
裁判所名 仙台高
裁判形式 判決
事件番号 平成1年 (行コ) 12 
裁判結果 棄却(上告)
出典 タイムズ780号189頁
審級関係 一審/05217/仙台地/平 1. 9.25/昭和62年(行ウ)3号
評釈論文
判決理由 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-脳・心疾患等〕
 ところで、労働者災害補償保険法第一条にいう「業務上の事由による労働者の・・・疾病」に該当する場合及び労働基準法第七五条にいう「労働者が業務上・・・疾病にかかった場合」とは、疾病が業務に起因する場合をいい、業務と疾病との間に相当因果関係があることが必要である(最高裁判所昭和五〇年(行ツ)第一一一号同五一年一一月一二日第二小法廷判決・判例時報八三七号三四頁参照。)と解すべきである。すなわち、労働者災害補償保険法は、労働基準法に規定されている使用者の災害補償責任を担保するための制度であり、右災害補償責任については、危険責任の法理が妥当し、また、労働者災害補償保険は、保険料の主たる原資が事業主の負担する保険料とされているうえ、責任保険としての性格を具有していること(労働者災害補償保険法第一二条の二の二、労働基準法第八四条一項)からすると、当該傷病等の発生が業務に内在ないし随伴する危険の現実化とみられるべき相当性の判断が要請されると解するのが相当である。したがって、この点に関する控訴人の主張は採用しない。
 そこで、右3認定の事実により本件くも膜下出血と業務との相当因果関係があるか否かを検討する。
 (1) Aは他の作業員に比較して欠勤日数が少なく、休日も出勤するなど、昭和五九年一月六日からの連続勤務の最長日数が二〇日間(昭和五九年一月一七日から同年二月五日まで。但し一日は半日勤務)に及んでいることからすると、一応、肉体的な疲労の蓄積が問題となりうる。
 しかしながら、Aは、昭和五四年からこのような作業をなしてきたものであり、本件事故前三か月の昭和五九年一月以降の作業は従前の作業に比較し、特に負担となるものであったと認めるに足る証拠はなく、また一か月前の作業についても特に負担となるようなものであったと認めることはできない。Aは、休日以外の日であっても欠勤することに特に制約はないのに、体の不調を訴えて休んだことを認める証拠はないこと、昭和五九年二月一四日、会社で健康診断が行われたが、Aは受診していないこともこのことを裏付けるものというべきである。
 (2) Aのくも膜下出血の原因はのう状動脈瘤の破裂であり、その大きさは長径七ミリメートル、短径四ミリメートルのかなり大きなものであり、長い年月を経て形成されたものである。寒冷、高所作業は脳動脈瘤の形成のリスクファクターではない。疲労はその蓄積が高血圧状態を招来させ、高血圧症が破裂のリスクファクターとなるという面においては関連性があると解するのが相当であるが、Aが本件事故前三か月間において疲労を蓄積していたとは認めることができない。もっとも、事故の五日前である昭和五九年三月二七日頃から身体の不調を訴え、酒も飲まず、食欲もなく、晩には早く寝、朝は遅くまで寝ているようになり、仕事に行くのも億劫がるようになり、本件事故当日も、顔色が悪く元気がなかったが、前記認定の作業内容及び同年三月二二日、二三日に欠勤をしていること、その後休もうと思えば休めるのに休暇をとっていないことからすると、右身体の不調が疲労の蓄積を原因とするとまでは認めることはできず、本件事故の二日前頃に、通勤のマイクロバス内で同僚に「風邪をうつされた。」などと言っていたことからすると風邪による身体の不調であったとも考えられるところである。
 そして、本件事故当日のAの梁の上での作業が当時のAに、身体に不調があったとしても、強度の精神的肉体的緊張を余儀なくされる業務であったと認めることもできない。
 (3) 以上によると、本件くも膜下出血の基礎疾病であるAの脳動脈瘤の発育ないし破裂は、脳動脈瘤が加齢とともに徐々に悪化し、自然発生的に増悪した可能性が大きいというべきであって、その発育ないし破裂について、業務と相当因果関係があると認めることはできないというべきである。