全 情 報

ID番号 05867
事件名 損害賠償請求事件
いわゆる事件名
争点
事案概要  セメント製造販売会社の従業員が排煙脱硫装置を発明したことにつき、職務発明か否かを巡って会社内で昇給差別等をうけたことが不法行為にあたるとして会社の上司等になした損害賠償請求が棄却された事例。
 排煙脱硫装置の発明が職務発明と考えるについて十分な理由があるとされた事例。
参照法条 民法709条
特許法35条
労働基準法2章
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 職務発明と特許権
労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 使用者に対する労災以外の損害賠償
裁判年月日 1991年11月25日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和62年 (ワ) 973 
裁判結果 棄却(確定)
出典 時報1434号98頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-職務発明と特許権〕
〔労働契約-労働契約上の権利義務-使用者に対する労災以外の損害賠償〕
 特許法第三五条にいう従業員等の「職務」とは、発明の完成を直接の目的とするものに限らず、結果から見て発明の過程となりこれを完成させるに至った思索的活動が、当該従業者等の地位、職種、職務上の経験や、使用者等がその発明完成過程に関与した程度等の諸般の事情に照らし、使用者等との関係で当該従業員等の義務とされる行為の中に予定され期待されている場合をも含むものと解するのが相当である。〔中略〕
 (2) そこで、右A支店における違法な処遇に関する被告らの責任の有無について検討するに、まず、被告らが共謀のうえ原告に対し右のような処遇をしたことを認めるに足りる証拠はない。この点について、原告は、A支店における原告の取扱いについては訴外会社内に特別な指揮系統が生じており、右処遇が被告Y1ら取締役の直接指揮に基づくものであることが明らかであると主張するが、およそ推測の域を出るものではなく、採用の限りでない。
 そこで次に、各被告が右のような違法な処遇を防止ないし是正すべき立場にあったかどうかにつき検討するに、昭和五三年六月まで機械事業部長であった(昭和五二年一一月からは工務部長兼務)被告Y2、昭和五三年六月までB工場長、同年同月から研究所長であった被告Y3及び昭和五三年六月まで生産部開発課長代理兼特許係長、同年同月から研究所開発課長代理兼特許係長であった被告Y4については、A支店における原告の人事上の取扱いを左右し得る立場にはなかったものと認められるから、仮に、前記違法な処遇の事実を知ったとしてもこれを是正する法的義務があったとはいえない。
 次に、被告Y1、同Y2及び同Y5は、右違法取扱いの期間中取締役であり(被告Y1は代表取締役社長、被告Y2は昭和五一年七月まで常務取締役、その後専務取締役、被告Y5は昭和五一年七月まで常務取締役、その後昭和五二年七月まで専務取締役)、人事に関する重要事項について決定・承認・協議をする等の権限を有していたものであるから、人事上の違法な取扱いがなされないよう監督すべき義務を負うということができる。しかしながら、同人らが本件職務発明問題につきある程度の情報を得ていたことは推認できるけれども、A支店における原告に対する人事上の具体的処遇についてまで知っていたことを認めるに足りる証拠はなく、また右処遇について知り得たことを認めるに足りる証拠もない。