全 情 報

ID番号 05903
事件名 地位確認請求事件
いわゆる事件名 JR東日本(水戸機関区)事件
争点
事案概要  旧国鉄時代に運転士あるいは車両係にあった者に対し、東日本旅客鉄道株式会社への採用時に、運転士兼関連事業本部所属を命じたことにつき、東日本旅客鉄道株式会社の責任を問うことはできないが、その後、他駅の営業係勤務を命じたことが不当労働行為にあたり無効とされた事例。
参照法条 労働基準法2章
日本国有鉄道改革法23条
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約の承継 / 新会社設立
配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令権の限界
裁判年月日 1992年3月17日
裁判所名 水戸地
裁判形式 判決
事件番号 昭和63年 (ワ) 116 
裁判結果 一部認容
出典 タイムズ801号150頁/労働判例605号52頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働契約-労働契約の承継-新会社設立〕
〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令権の限界〕
 (ア) 主位的請求は、関連事業本部兼務発令と後の兼務発令の解消のいずれもが不当労働行為もしくは人事権の濫用として無効であることを前提とするものである。
 ところで、前記のとおり、被告採用時における発令内容は、原告らの右事前通知当時における国鉄の発令内容を機械的に読み替えてされたにすぎないのであり、また被告は改革法によって新たに設立された法人であって、同法二三条の解釈上その職員との間の雇用関係を承継するものではなく、勤務箇所等の通知までに四月一日以降の新会社における業務が円滑に運営されるよう配慮すること(改革法二条二項)を目的としてされた国鉄による人事異動も国鉄独自の判断と責任において行われたものといわざるをえず、設立委員と国鉄との具体的関係において、新会社(被告)の社員の人事異動に関して関係法令上具体的委託ないし命令の関係がないのであるから、採用時の兼務発令についての責任を被告に帰することはできないというべきである(運輸大臣が国会答弁において「代行」なる用語を用いて改革法二三条の趣旨を説明したからといって、同条の右解釈が左右されるものではない。)。
 原告らは、被告設立委員が国鉄の判断から独立して職員の配属を決定することが可能であるのに、国鉄による不当労働行為ないし人事権の濫用の結果をそのまま追認した点で不当労働行為ないし人事権の濫用の責任がある旨主張するが、改革法二三条等関係法令の解釈上、採用候補者の選定は国鉄の専権に属し、設立委員の権限に由来すると解する余地はない以上、設立委員は改革法二条二項の趣旨からされた人事異動の内容は尊重すべきであり、新会社発足までの間において国鉄が何らかの不当な意思をもって人事異動を行ったか否かを間(ママ)擬しうる立場になかったというべきであるから、原告らの右主張も採用できない。
 また、兼務発令の解消についても、前記のとおり、被告の組織改正に伴い、当時関連事業に従事していた社員全員を対象として行われたものであり、採用の際の関連事業本部兼務発令について被告に不当労働行為ないし人事権の濫用の責任がない以上、右の発令解消に関しても不当労働行為や人事権の濫用として無効となる余地はないものといわなければならない。〔中略〕
 以上検討したとおり、原告らに対する本件転勤命令の業務上の必要性の乏しさ、他方、原告らの受ける重大な不利益、原告らのこれまでの組合活動及びこれに対する被告の態度、そして本件転勤命令に至る経緯を総合勘案するときは、本件転勤命令は、結局被告が原告らの組合活動を嫌悪し、右活動を困難ならしめ、組合員に対する影響力を減殺する意図のもとにしたものであり、これが本件転勤命令を発するに至った決定的動機であると推認できる。
 したがって、人事権の濫用の有無について判断するまでもなく、本件転勤命令は、労働組合法七条一号の不当労働行為にあたり無効であるといわなければならない。
 そして、前記認定のとおり、被告は昭和六三年四月に組織改正を行った結果、昭和六二年四月一日当時「関連事業本部(水戸在勤)」という職にあった者に対し、その後何らの転勤命令等もなかったとすれば、その者は現在「水戸駅営業係」もしくは「水戸駅営業指導係」の地位にあるのであるから、少なくとも「水戸駅営業係」の地位の限度では単なる組織改正に伴う呼称の変更にすぎないと解され、原告らは現在、少なくともこのような地位にはあるということができる。
 しかしながら、「水戸駅営業指導係」の地位つ(ママ)いては、その職名からしても一定の指導的立場にあるものであるから、その発令にあたっては被告の裁量の余地が大きいものと判断せざるをえず、また駅の大小等も発令内容に当然影響を及ぼすと解されるから、A駅の営業指導係の地位にあったものが当然B駅の営業指導係と同格の地位にあったとまで直ちに認めることはできず、これを認めるに足りる証拠はない。そうすると、現在原告X1が東海駅営業指導係、原告X2が大甕駅営業指導係の地位にあるからといって、本件転勤命令がいずれも無効な場合、両原告がいずれも当然に水戸駅営業指導係の地位にあるとまで認めることは困難であるというべきである。
 したがって、予備的請求のうち、原告X1及び同X2が水戸駅営業指導係の地位確認を求める部分は理由がないというべきである(しかしながら、右請求の趣旨の中には当然「水戸駅営業係」の地位確認を求める趣旨も包含されているものというべきであり、右の限度で地位確認を命ずることは請求の一部認容として許容されると解される。)。