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ID番号 05920
事件名 労働者災害補償保険法による遺族補償給付の不支給処分取消請求事件
いわゆる事件名 バナナ労災事故事件
争点
事案概要  労災保険の特別加入者であるバナナ熟成加工業者が作業終了後くも膜下出血により死亡した場合につき、業務災害にあたるとされた事例。
参照法条 労働者災害補償保険法7条
労働者災害補償保険法12条の8第2項
労働者災害補償保険法28条1項
労働者災害補償保険法31条
労働者災害補償保険法施行規則46条の26
体系項目 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 脳・心疾患等
労災補償・労災保険 / 労災保険の適用 / 特別加入
裁判年月日 1992年4月28日
裁判所名 大阪高
裁判形式 判決
事件番号 平成3年 (行コ) 16 
裁判結果 原判決取消,認容(確定)
出典 タイムズ791号148頁/訟務月報39巻1号86頁/労働判例611号46頁
審級関係 一審/05762/神戸地/平 3. 5.21/昭和62年(行ウ)26号
評釈論文
判決理由 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-脳・心疾患等〕
〔労災補償・労災保険-労災保険の適用-特別加入〕
 2 ところで労災保険は、本来労働者の業務災害に対する補償を目的とし、中小企業主等の業務災害は保護の対象としていないが、特別加入制度は、これらの者の業務の実情、災害の発生状況等から見て、実質的に労基法適用労働者に準じて保護することがふさわしい者に対し、労災保険を適用しようとするものである。したがって、特別加入者の被った災害が業務災害として保護される場合の業務の範囲は、あくまで労働者の行う業務に準じた業務の範囲であり、特別加入者の行うすべての業務に対して保護を与える趣旨ではない。控訴人は、特別加入制度は社会保障的原理に基づくものであると主張するが(控訴人の原審における反論2、当審における主張1)、独自の主張であって採用できない。また、特別加入者の業務内容は労働者の場合と異なり、労働契約に基づく他人の指揮命令により他律的に決まるのではなく、当人自身の判断によって主観的に決せられる場合が多く、通常その業務の範囲を確定することは困難である。
 そこで右基準(通達)は、業務遂行性を労働者の行う業務に準じた労務の範囲に限定し又その業務の範囲を明確にするべく、その業務上外の認定は、特別加入申請書記載の業務内容を基礎とし、原判決添付別紙(二)「中小事業主等の特別加入者の業務災害の認定基準」に従って行うこととして、業務遂行性についての具体的な規定を置いている。他方右基準(通達)は、業務起因性については「労働者の場合に準ずる」とする規定を置くだけである(昭五〇・一一・一四基発第六七一号、昭五二・三・二八基発第一七〇号)。〔中略〕
 (四) 以上を総合して判断するに、業務遂行性の認められる業務によってAに日頃から蓄積された疲労のすべてがくも膜下出血による死亡に結びついたとは認めがたいが、右業務自体が、一般人から見ても相当に重い業務であっただけではなく、高血圧症や脳動脈瘤等の基礎疾患のあるAにとって、右のような重筋労働、急激な気温の変化を伴う業務は、長期間にわたり同人の基礎疾患の増悪に軽視することのできない影響を及ぼしたと推認することができるのみならず、発症前の昭和五九年夏の高温下での又温度格差のある作業環境での業務は一層の大きな影響を与え、更にくも膜下出血の警告症状が発現した後の業務特に急激な温度変化に曝されての搬入作業はAの血圧を急激に上昇させて、その基礎疾患たる脳動脈瘤等に決定的な打撃を与え、くも膜下出血を発症せしめたものと認めるのが相当である。したがって、業務遂行性の認められる業務がAにとって精神的、肉体的に過重負荷となり、その基礎疾患をその自然的経過を超えて増悪させてその死亡時期を著しく早めたもので、右業務がくも膜下出血の相対的に有力な原因になったと認められるから、右業務と同人のくも膜下出血による死亡との間には、相当因果関係が存するものというべきである。