全 情 報

ID番号 05936
事件名 未払賃金請求事件
いわゆる事件名 三菱重工事件
争点
事案概要  被扶養者の人数を基準として算出される家族手当付加額を時間外割増賃金算定の基礎に算入しないことが適法とされた事例。
参照法条 労働基準法11条
労働基準法37条
労働基準法89条
労働基準法93条
体系項目 賃金(民事) / 割増賃金 / 割増賃金の算定基礎・各種手当
就業規則(民事) / 就業規則の一方的不利益変更 / 賃金・賞与
裁判年月日 1992年7月16日
裁判所名 長崎地
裁判形式 判決
事件番号 平成3年 (ワ) 227 
裁判結果 棄却
出典 労経速報1470号3頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔就業規則-就業規則の一方的不利益変更-賃金・賞与〕
〔賃金-割増賃金-割増賃金の算定基礎・各種手当〕
 2 しかし、被告会社は、組合の反対を押して提案どおりの内容で家族手当の改正を行うこととし、就業規則である社員賃金規則及び同細部事項の取扱いの変更を適法な手続を経て行った。
 右変更の内容は、従前はその全額が時間割賃金の基礎額に算入されていた有扶手当を、家族手当に改め、基礎額部分はこれまでどおり時間割賃金の基礎額に算入するが、付加額部分は算入しないことにするというもので、他方、ストライキカットについては両部分とも従前の取扱いを変更しないというのであるから、これを制度全体としてみると、労働者にとって就業規則の一方的な不利益変更であるといえなくもない。
 そこで、右付加額部分を時間割賃金の基礎額に算入しない取扱いが合理的か否かについて検討する。家族手当付加額は、右一(四)(1)記載のとおり被扶養者の人数を基準として算出し、基礎額に付加して支給されるものであって、労働者の個人的な事情に基づいて支給される性格の手当であること、ストライキカットの対象となる範囲については当該労働協約等の定め又は労働慣行の趣旨に照らして判断すべきものであって、家族手当付加額がストライキカットされるとしても、それによって右のような性質が変わるものではないことから、家族手当付加額は労働基準法三七条二項にいう家族手当に該当すると解される。しかも、時間割賃金の基礎額に算入される家族手当の基礎額部分の金額は月額八五〇〇円であって、従前の有扶手当の金額と同額であり、算入額そのものの切り下げはなされていないこと、及び、組合も最終的には右不算入それ自体はやむを得ないとしていることなどを考え合わせると、右のような家族手当付加額を設けるに当たってこれを時間割賃金の基礎額に算入しないとすることにはそれなりに合理性があるというべきである。
 もっとも、右家族手当の付加額部分は、時間割賃金の基礎額に算入されないのにストライキの場合には欠務の時間に応じて控除されるということになるのであるが、この点は、昭和二三年ころから行われた旧家族手当の取扱いと同じであって、これが一般的に不合理で違法であるとまでいえないことは、既に右旧家族手当のストライキカットについてなされた前記の最高裁判所の判決(昭和五一年(オ)第一二七三号)で前提とされているとおりである。
 したがって、前記就業規則の変更は適法になされたというべきであって、以後原告らと被告会社の関係は、右就業規則の定めるところによることになる。