全 情 報

ID番号 06024
事件名 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 全税関大阪事件
争点
事案概要  税関職員で組織する労働組合の組合員らが、昇任、昇格、昇給等で不当な差別があったとして、非組合員の基準コースとの間に生じた給与の差額、慰謝料等の請求を求めた事例。
参照法条 国家公務員法27条
国家公務員法108条の7
民法709条
労働基準法3条
国家賠償法1条1項
体系項目 賃金(民事) / 賃金請求権と考課査定・昇給昇格・降格・賃金の減額
労基法の基本原則(民事) / 均等待遇 / 信条と均等待遇(レッドパージなど)
裁判年月日 1992年9月22日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 昭和49年 (ワ) 2701 
裁判結果 一部認容
出典 労働民例集43巻5・6号790頁/時報1442号3頁/タイムズ800号111頁/訟務月報39巻7号1169頁/労働判例616号22頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔賃金-賃金請求権と考課査定・昇給昇格・賃金の減額〕
〔労基法の基本原則-均等待遇-信条と均等待遇(レッドパージなど)〕
 一 昇任、昇格、昇給制度の趣旨、内容は、前記(当事者間に争いのない事実等)二に判示したとおりである。したがって、昇任、昇格、昇給させるか否かの判断は、任命権者たる税関長の裁量に属するものというべきである。
 しかし、右裁量権の行使が、国公法二七条の平等原則、同法一〇八条の七の不利益取扱禁止の原則に違反し、組合所属を理由とする差別意思をもってなされた場合には、原告組合員らを昇任、昇格、特昇させなかったことは、原告組合員らに対し、他の職員と人事査定において平等な取扱いを受けるとの原告組合員らの法的保護に値する利益を侵害するものとして不法行為を構成するとともに、原告組合との関係においてもその団結権を侵害するものとして不法行為になるものというべきである。
 二 被告は、昇任、昇格、特昇させるべきか否かが裁量行為である以上、そもそも任命権者に昇給等について作為義務を生じる余地はないから不作為が裁量権の濫用として違法となることはないと主張する。
 しかし、税関長は、人事権を行使するに当たり当該職員を組合所属を理由として差別することなく査定し、昇給等を決定すべき法的義務を負っているものというべきであり、これに反した取扱いを行った場合には裁量権の濫用となるものといわなければならない。
 三 さらに、被告は、税関長が裁量権を濫用し、原告組合員らを差別して取り扱ったというためには、原告組合員らにおいて、特定の時期に、在職年数、経験年数、在級年数のほか、勤務成績が他の職員と同等であったにもかかわらず、他の職員は昇給等し、原告組合員らはしなかったことが主張、立証されなければならないと主張する。
 被告の主張は、原告らが本件で請求している基準コースとの差額を不法行為より生じた損害と認定するための要件としては正当である。
 しかし、後述するとおり、原告らが本件で請求している損害はこれにとどまるものではなく(後に損害の項で詳述)、原告らがこれを含む不利益取扱いを受けないとの利益を侵害されたと認定するためには、差別意思を持った査定が行われ、その結果として同期入関者との間に給与格差が生じたとの事実が主張、立証されれば足りるというべきである。
 本件で、税関長の差別意思に基づく人事査定により、原告組合員らの昇給等が遅れ、その結果、格差のある部分が生じたと認定できることは前判示のとおりである。そして、差別査定の時期(行為)の特定は、税関長が本件係争期間中一貫して原告組合員らに対する差別意思を有していたことが認定できる本件では、本件係争期間中に原告組合員らに対して行われた査定時期の内、原告らが同期入関者との間で格差が生じ始めたと主張している時期(具体的には基準コースとして主張された昇格、特昇時期)後本件係争期間終了の時点までの内の少なくとも一回以上であると認定することが可能であり、それを以て足りると解すべきである。〔中略〕
 原告らは、原告組合員らは税関長の差別意思に基づく査定がなければ、別表1の基準コースのとおり昇格、昇給し得たとし(基準コースの説明は前記原告らの主張のとおり)、これとの差額を原告組合員らに対する差別取扱いによる給与上の損害額とする。
 そこで、基準コースの設定が原告組合員らの給与上の実損害を算定するうえで合理的か否かにつき考えるに、原告組合員らが、同コースに設定された時期に昇格、昇給すべきであったと認められるためには、少なくとも、最低コースとして挙げられた職員の昇格、昇給時期が損害額算定基準として使用できる程度に正確であること(この認定が困難なことは(争点一)で述べたとおり)、最低コースとして挙げられた職員と原告組合員らとの勤務成績が同等であること(原告組合員らの大多数に非違行為等があり、これが勤務成績の評価に全く反映していないとはいえないことは前判示のとおりであることから、ここでの勤務成績は非違行為等の存在を加味したうえで立証される必要がある。)、さらに、対象外非原告と対象非原告との区別に理由があることが立証される必要があると解せられるところ、本件でこれを認めるに足りる証拠はないから、基準コースは原告組合員らの右実損害を算定するうえで合理的とはいえない。
 また、非違行為等の存在が勤務成績に影響を与えるといわざるを得ないことからすると、原告組合員らに生じた給与上の格差は差別行為による部分と非違行為等による部分が混在するのであり、差別格差が格差の内のどの部分かが確定できない以上、差別行為に基づく給与上の実損害は算定できないものと解さざるを得ないところ、本件で提出された証拠からこれを確定することは不可能である。
 したがって、基準コースとの対比で原告組合員らの前記実損害を算定するとの原告らの主張は採用できない。〔中略〕
 2 次に、原告らは、差別意思に基づく査定により、働く者の権利が侵害され、精神的苦痛を蒙ったとして慰謝料を請求する。
 原告組合員らが、国家公務員として職員組合に所属し、その活動を行う権利を有していることは、憲法二八条の規定を待つまでもなく明らかである。本件で、原告組合員らと同期入関者の間に生じた給与格差のある部分が、税関長の差別取扱いの結果生じたものであることは前記認定のとおりである。そうすると、右税関長の行為は、原告組合員らが、職員組合に所属し、活動する権利を侵害するものであり、原告組合員らがこれにより精神的苦痛を蒙っていることは、前記陳述書及び弁論の全趣旨により明らかであるから、被告は、国家賠償法一条一項により、これに対する慰謝料を支払うべき義務があるものというべきである。
 そこで、慰謝料額につき考えるに、この精神的苦痛は、それが、職員組合に所属し、活動する権利の侵害によるものであり、原告組合員ら全員が本件係争期間を通じ原告組合員であったことからすると、職員としての勤務年数、給与の高低如何にかかわらず一律と評価し得ること、原告組合員らの慰謝料請求額は最低三〇万円であること(この内には1の慰謝料部分が含まれている。)、その他、本件に現れた一切の事情を総合考慮し、その額は、原告組合員ら各自につき一律金一〇万円であると認めるのが相当である。