全 情 報

ID番号 06033
事件名 未払金請求/解雇無効等確認請求事件
いわゆる事件名 新大阪警備保証事件
争点
事案概要  警備員として勤務していた労働者が解雇されたとして、未払い賃金を請求するとともに(甲事件)、右解雇の無効確認を求めた事例(乙事件)。
参照法条 労働基準法37条
労働基準法2章
体系項目 賃金(民事) / 割増賃金 / 支払い義務
退職 / 合意解約
裁判年月日 1992年9月30日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 昭和63年 (ワ) 10971 
平成3年 (ワ) 1280 
裁判結果 一部認容・棄却
出典 労働判例620号70頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔賃金-割増賃金-支払い義務〕
 原告は、平日及び土曜日には、被告に命じられ、始業時刻より二〇分早く出勤していたから、右二〇分に相当する分が時間外労働であるとも主張する。
 右の点につき、原告は、被告の担当者から、「二〇分位早めに出勤して待機するように。」と言われたことがあり、このことが二〇分の時間外労働を命じられたことの根拠である旨、本人尋問において供述する。
 しかし、他方、原告は、右担当者が言ったことは、前記警備員勤務心得(〈証拠略〉)の1の「上番勤務」として記載されている内容のものと同じ趣旨のものであるとも供述するところ、(証拠略)によれば、被告の警備員勤務心得の1の上番勤務の項には、「勤務者は余裕をもって勤務先に到着すること。」という、警備員たる従業員の一般的な心構えについての記載があることが認められるものの、右記載が始業時刻より二〇分早く出勤することを命じているとは理解し難く、右に、(人証略)を合わせ考えると、原告本人の供述のみをもって、被告が原告に二〇分早く出勤するように命じたとの事実を認定することは困難というべきである。
 (三) 以上によれば、時間外労働に対する賃金の請求分は、その前提となる原告が時間外労働をしたとの立証がないから、その余の点について判断するまでもなく、失当である。
〔退職-合意解約〕
 合意解約の抗弁について検討するに、(人証略)には合意解約が成立したかのような供述部分がある。
 しかし、一方、原告の平成元年五月三一日付の被告宛の退職届と題する書面(〈証拠略〉)には、退職の意思表示を表わす定型の文章以外に、「被告の措置は不法解雇であり、原告自身、裁判で争う」との原告の作成による文章が明記されている。
 右の事実に、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる(証拠略)、原告本人尋問の結果を合わせ考えると、右退職届と題する書面は、原告の退職の意思表示を表したものというよりは、退職の件に関しては、裁判によってでも争うとの、退職の意思を拒否した抗議の意思が表明されたものとみるのが合理的である。
 したがって、右書面の存在をもって、原告が退職することに被告と合意したと理解するのは相当でなく、他に合意解約の成立を認めるべき証拠はない。