全 情 報

ID番号 06056
事件名 労災補償不支給決定処分取消請求事件
いわゆる事件名 泉大津労基署長(横山運輸)事件
争点
事案概要  荷降作業中に重篤な不整脈に基づく心不全を発症して死亡したトラック運転手の右死亡につき、業務災害に当たらないとした労基署長の不支給処分が争われた事例。
参照法条 労働基準法79条
労働者災害補償保険法16条
体系項目 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 業務起因性
労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 脳・心疾患等
裁判年月日 1992年12月14日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成1年 (行ウ) 75 
裁判結果 棄却
出典 労働判例620号32頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-業務起因性〕
 労働者が業務上死亡したというためには、まず、業務と死亡の原因となった疾病との間に条件関係があることが必要である。すなわち、本件においては、亡Aに肥大型心筋症の基礎疾病があったことを前提として、業務に従事していなかったなら、重篤な不整脈は発生しなかったであろうと認められることが必要となる。以下この観点から判断する。
〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-脳・心疾患等〕
 (証拠略)によると、亡Aは、ガチャと呼ばれる荷締め器を使う作業を開始し、これが終了する前(終了するとワイヤははずれた状態となる。)に発作を起こしたと推認できる。そこでこの作業が血圧上昇とか心拍数の増加をもたらす性質をもつものか否かにつき考えるに、これについては、「かなり力を使う仕事」であるとする証拠(〈証拠略〉)と「特に大きな力を入れるようなことはありません。」との証拠(〈証拠略〉)、さらに「少し力を入れる。」との証拠(〈証拠略〉)がありその程度を確定するのは困難である。しかし、仮に(〈証拠略〉)に従うとしても、その程度は、日常生活においてあり得る程度を超えて不整脈発生の危険を有する作業とは認められないから、亡Aが業務中であったことは単なる機会原因(すなわち、業務中でなくても発生したことが推認できる以上、業務中であったことは単なる機会以上の意味を持たない。)にすぎず、業務との間で因果関係を肯定することはできないというべきである。
 (3) 右のとおりであるから、亡Aが業務に従事していなかったなら重篤な不整脈が発生しなかったであろうと認めることはできないというほかない。
 三 次に、原告は、使用者に健康管理義務違反があることが業務起因性の判断につき考慮すべき事情であると主張する。
 まず、本件で、使用者が健康診断を実施していたなら、亡Aが不整脈発生により死亡しなかったと認めるに足りる証拠はない。むしろ、亡Aは、健康診断を待つまでもなく、昭和五三年一月の時点で自己に重篤な心疾患があり突然死の恐れがあることまでも告げられており、それにもかかわらず受診を止めていたことからすると、会社が健康診断を実施していたとしても、亡Aの死亡は避けられなかった疑いが強い。
 さらに、そもそも、使用者の義務違反が業務起因性の判断要素となるか否かにつき考えるに、業務起因性とは業務と当該疾病との間に因果関係があるか否かの判断であり、ここでいう業務とは「当該事業の運営にかかる業務であって、かつ当該労働者が従事するもの」をいうと解すべきであるから、使用者に健康管理義務違反があるか否かをこの意味の業務に含むことはできず、したがって原告の主張はそれ自体失当である。