全 情 報

ID番号 06077
事件名 雇用関係存在確認等請求事件
いわゆる事件名 JR東日本(武蔵小杉駅)事件
争点
事案概要  改札事務室への無断立ち入り、業務用マイクを無断で使用しての駅助役に対する誹謗中傷、助役に対する暴行等を理由としてJR東日本の社員が懲戒解雇され、その効力が争われた事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 暴力・暴行・暴言
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒手続
裁判年月日 1993年2月24日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和63年 (ワ) 4995 
裁判結果 棄却
出典 労働判例623号11頁/労経速報1522号18頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-暴力・暴行・暴言〕
 本件懲戒事由は、酒気を帯びて、かつて分会長を務めていた職場に赴き、業務用マイクを無断使用し、管理者を誹謗中傷する内容の放送をして管理者を呼び出し、管理者からの退去命令にも従わず、改札事務室及びホーム上において、管理者に暴言と暴行を加え、傷害を負わせたうえ、乗降客の前で管理者を誹謗中傷する発言を繰り返したというものであって、原告の当夜の一連の行為全体を評価すれば、その態様は、執拗かつ度を過ぎて反抗的なものであること、しかも、前記のとおり、原告は、これまでにも本件と同様、酒気を帯びて駅改札事務室に立ち寄り執務中の職員に対し不要な発言をし、これを注意した管理者に暴言をはき再三の退去命令に従わなかったことなどがあることから、本件は、単なる偶発的な行為とみることができないこと、殊に、原告が出発指示合図等の業務の重要性を認識しながら、暴行等によりA助役の行う右業務を故意に妨害した行為は、列車運行を阻害する具体的危険性のある行為であり、かつ多数の利用者に多大な迷惑をかけるおそれがあったこと、原告の当夜の行動がA助役の分会に対する態度に抗議しようとしたのが動機であるとしても、原告の行為は、抗議の手段・方法の点で著しく常識を欠くものであって、正当な抗議行為ということはできないこと、当夜の原告の一連の行為に対する管理者の対応措置には何らの問題がなかったこと等に照らしてみると、被告の社員として看過できない非行といわざるをえない。そうすると、原告の暴行によるA助役の傷害の程度が継続的な治療を要しない程度の軽微なものであったこと、原告の一連の行為が酔余のものであること、実際上列車運行に支障を及ぼさなかったこと等の諸事情を考慮しても、被告が懲戒処分のうち最も重い懲戒解雇処分を選択したことをもって、社会通念上合理性を欠くということはできない。
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒手続〕
 原告が被告管理者の求めに応じて自認書を提出したことは、前記のとおりであるところ、原告は、被告においては自認書の提出で処分手続が終局するとの慣例があったと主張するが、一般に、自認書は、自ら行った事実を明らかにして、懲戒処分の一資料とするために作成されるにすぎないものであって、本件全証拠によっても、非違行為の情状如何にかかわらず、自認書を提出しさえすれば懲戒処分をしないとの慣例があったと認められず、しかも、この自認書は、被告が賞罰に関する協議決定を経たうえで原告の処分を自認書でもって終局させる意図に基づいて原告に提出を求めたものとも認められないのであるから、原告のこの点に関する主張は理由がない。
 更に、原告は、被告が、A助役と原告の言い分が暴行等の重要な事実の点で相反していたにもかかわらず、被告が原告から再度の事情聴取をしないまま、原告を懲戒解雇したことを問擬するが、このような場合に再度の事情聴取を義務づける手続規定はないうえ、被告は本件の翌日に原告に弁解の機会を与え、現場にいた他の社員からも事情聴取したうえで、再度の事情聴取をしないでも懲戒解雇するに足る事由が認められると判断して懲戒解雇をしたものであり、しかも、被告の右判断に誤りがなかったことも前記のとおりであるから、被告が再度の事情聴取しなかったことが違法であるとする余地はない。
 3 したがって、本件懲戒処分が裁量権の濫用であり無効であるとの原告の主張は理由がない。