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ID番号 06084
事件名 懲戒処分取消請求事件
いわゆる事件名 福岡県教組北九州支部事件
争点
事案概要  市教委と教職員組合が共催で行なってきた教科等教育研究部会の開催方法をめぐり方針の変更があり、右部会の運営を妨げたとしてなされた減給処分、停職処分が有効とされた事例。
参照法条 教育公務員特例法19条
教育公務員特例法20条
地方公務員法27条
地方公務員法33条
地方公務員法56条
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 違法争議行為・組合活動
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 業務妨害
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒権の濫用
裁判年月日 1986年12月25日
裁判所名 福岡地
裁判形式 判決
事件番号 昭和48年 (行ウ) 8 
裁判結果 棄却
出典 労働判例492号23頁
審級関係 控訴審/福岡高/平 4. 3.30/昭和61年(行コ)34号
評釈論文 俵正市・教育委員会月報440号50~63頁1987年4月
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-業務妨害〕
 6 以上1ないし5で認定したとおり、原告らは、いずれも本件研究部会の各会場に、校内研究組織(校務分掌)に従って出席することとなっていた各部会の部員でないにもかかわらず(但し、原告木部にかかる(一)の事実を除く。)無断で入室し、当該各部会の主宰者である部長の再三の退場命令に従わず、大声を張上げ激しい口調で部長らに詰め寄るなどして、著しく同部会の運営を妨害し、その実質審議を不能ならしめたものであり、かかる行為は、教育を通じて国民全体に奉仕する教育公務員として、甚だふさわしくない非行であり、その職の信用を著しく傷つけるものというべきである。
 したがって、原告らの行為はいずれも地公法三三条に違反し、同法二九条一項一号及び三号の懲戒事由に該当する。
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-違法争議行為・組合活動〕
 3 原告らの行為が地公法五六条に該当しないことについて
 原告らは、本件においてとった原告らの一連の行動は当局側の違法な職務命令による研修に対する正当な抗議行動であって、通常の労使の対立による紛争の域を出でず、その目的、態様等の点からみても、公務の公正な運用に困難を来す程のものではない旨あるいはまた本件研究部会に臨んで原告らのとった行為は、職員団体としての正当なものであり、地公法五六条の「正当な組合活動」に該当するから、何ら不利益な取扱いを受けるべきものではない旨主張する。しかしながら、研修そのものは勤務条件ではなく、当局と職員団体との間の交渉の対象となるべき事項ではないし、他方、前記説示のとおり、本件研究部会は、被告がその職務権限に基づいて適法に組織編成し、開催したものであり、各教員に対し、その服務監督権に基づく適法な職務命令によって研修を受けることを命じたものであって、結局本件研究部会に際しての原告らの前記認定の行為は、その目的、態様、手段、方法においていずれも社会的相当性の範囲を著しく逸脱するものというほかはなく、現に公務たる本件研究部会の円滑な運用を甚だしく阻害しているのであって到底職員団体としての正当な行為とは言えず、従って本件処分が地公法五六条に反しないことは明らかというべきである。
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒権の濫用〕
 4 本件処分が裁量権の濫用に当らないことについて
 原告らは、本件各処分が懲戒権の濫用に該当する旨主張するので、この点につき判断する。
 地方公務員に懲戒事由がある場合に、懲戒権者が当該公務員を懲戒処分に付すべきかどうか、また、懲戒処分をするときにいかなる懲戒処分を選択すべきかを決するについては、公正でなければならない(地公法二七条)ことはもちろんであるが、懲戒権者は懲戒事由に該当すると認められる行為の原因、動機、性質、態様、結果、影響等のほか、その他諸般の事情を考慮して、懲戒処分に付すべきかどうか、また、懲戒処分をする場合にいかなる処分を選択すべきかを決定できるのであって、それらは懲戒権者の裁量に任されているものと解される。したがって、右の裁量は恣意にわたることをえないことは当然であるが、懲戒権者が右の裁量権の行使としてした懲戒処分は、それが社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権を付与した目的を逸脱し、これを濫用したと認められる場合でない限り、その裁量権の範囲内にあるものとして違法とならないものというべきである(最高裁判所昭和五二年一二月二〇日第三小法廷判決・民集三一巻七号一一〇一頁参照)。
 これを本件についてみるに、原告らは、前記四で認定したとおり、昭和四五年六月一一日から二六日までの間の土、日曜を除く一二日間にわたって北九州市の各区において開催された本件研究部会の会場に押しかけて、管理者である部長の指示・警告を無視して、部長に対して大声で抗議したり野次ったりするなどの各種妨害行為を行い、部会の正常な運営を不可能にしたものであって、原告らの各行為の目的、性質、態様及び情状に照らすと、原告らに対する本件各処分が社会観念上著しく妥当を欠くものとは思われないし、他にこれを認めるに足りる事情も見当たらないから、本件各処分が懲戒権者に任された裁量権の範囲を超え、これを濫用したものと判断することはできない。