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ID番号 06088
事件名 分限免職処分取消等請求事件
いわゆる事件名 守口市門真市消防組合事件
争点
事案概要  消防吏員に対する職務の適格性を欠くことを理由とする分限免職処分が有効とされた事例。
 消防署長による吏員に対するいやがらせ行為につき、五万円の慰藉料が認容された事例。
参照法条 地方公務員法28条1項2号
国家賠償法1条
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 使用者に対する労災以外の損害賠償
解雇(民事) / 解雇事由 / 職務能力・技量
裁判年月日 1987年3月16日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 昭和57年 (行ウ) 104 
昭和58年 (行ウ) 154 
裁判結果 一部認容
出典 労働判例497号121頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-使用者に対する労災以外の損害賠償〕
 三 右認定事実を前提に、請求原因3項の国家賠償法一条一項に該当する違法行為があったか否かの事実について検討するに、同項(一)冒頭の、A消防長に遠距離通勤者らに徹底的ないやがらせをし退職に追いこむとの方針があったこと、B署長らがA消防長の意向を受けていやがらせ行為をしたことは、これを認めるに足りず、同(1)のうち、上司らが原告に対し管内ないしその近隣への転居をたびたび勧めたことは認めるものの、原告が任用された際その旨を約していたこと、前記二3認定のとおり、消防吏員の職責や通勤費を考慮すると右勧告にもそれなりの合理的な理由が認められることなどからすると、右勧告に違法性があったものとまでは到底いえず、同(2)のうち、原告を庶務係へ配転した理由は、前記二24認定のとおり、当時警備係の職務がつとまらなかった原告に勉強する機会を与えるというものであったのであるから、配転権を濫用した違法があったものとは認められず、従って、同(3)のうち、B署長らが原告の警備係に戻して欲しい旨の要請を断ったことも違法とはいえず、同(3)の宣誓書及び同(5)の退職願は、原告が自発的に書いて直属の上司であるC司令に提出してきたものであり、B署長らが原告に対し書くことを強要したとまで認定できない以上この点に関し違法行為があったとはいえず、同(4)の点は、前記二5認定事実を前提にすると、仮に厳しく注意し叱責したとしても直ちに違法とまではいえず、同(7)の点は、これを認めるに足りない。
 ところで、同(6)の点に関しては、前記二9認定のとおり認められるところ、一般的に退職の確実な者ないしは退職意思を明確にしている者以外の者の氏名を意図的に削除し、その者に見せる目的で職員配置表案を作成する行為は、無言の退職勧奨としての効果をもつものであり、また、配置表案という書面でなされる点において、相手方に与える精神的打撃は大きいものがある。本件においては、原告が宣誓書や退職願を提出したことは一応認められるものの、C司令はその真意を原告に確めたところ、原告には本当に辞職するとの気持ちがないとの感触を得ており、B署長らにも原告が本当に辞職するつもりはないことが判っていたものと推認できる。従って、原告の従前の勤務態度に問題があり、軽々しく退職願などを提出する行為に対しけじめをつけ、その反省をうながし発奮させる必要があり、本件行為が主として右のような動機からなされたことを考慮しても、なお、本件行為の違法性を否定することができないものといわざるを得ない。
〔解雇-解雇事由-職務能力・技量〕
 地方公務員法二八条一項二号の分限免職事由としての「心身の故障のため、職務の遂行に支障があり、又はこれに堪えない場合」とは、同条二項一号の分限休職事由との対比上、将来回復の可能性のない、ないしは、分限休職期間中には回復の見込みの乏しい長期の療養を要する疾病のため、職務の遂行に支障があり、又はこれに堪えない場合を指すものと解すべきであるが、分限休職処分を必ず前置すべきものとまでは解しえない。また、右規定にいう職務の遂行に支障があり、又はこれに堪えないかどうか判断するにあたっては、将来の配転の可能性がありうる以上、当該職務の基本的な性格を考慮することが許されるものと解すべきである。本件においては、原告には、前記二2項及び12項認定の奇行がみられ、原告を診断した医師は、狭義の精神病に属する精神分裂病に該当するか心因反応ないしは精神病質に該当するかの違いはあるにしても、すべて原告に広い意味での精神疾患が存することを指摘し、そのうち、被告消防長が、前記二9項記載の条例により指定医として指定したD医師及びE医師はともに、右疾患が休職措置によってはまかなえないほどの長期の療養を要し回復の見込みの乏しい疾患であると診断しているものと考えられる。そして、消防の職務の基本的な性格が危険性の高い公安職であることを考慮すると、原告を庶務係にとどめておくことが相当でないとして被告消防長がなした本件処分は前記実体的な要件を満たし、かつ、前記条例上の手続的な要件も満たす適法な処分であったものというべきである。よって、抗弁事実はすべてこれを認めることができる。
 ところで、地方公務員法二八条一項二号の要件に該当する場合でも、処分権者は必ずしも分限免職処分をする必要はなく、この点において、処分権者にはある程度の裁量権が認められているものと解されるところ、原告は、被告消防長が右裁量権を逸脱し、濫用したとして、再抗弁事実を主張する。しかしながら、再抗弁1の事実のうち、原告が精神疾患に罹患したのは、被告消防長の意向を受けたB署長らの徹底的ないやがらせ行為に起因すること、同2の事実のうち、被告消防長は、もともと当初から原告のような遠距離通勤者などを排除することを企図のうえ本件処分をなしたことは、第一で判示したとおり、いずれもこれを認めることはできず、同3の事実は、前号の要件を満たすかぎり、分限休職措置を前置しなくとも違法とは解されないことは前記のとおりであるから、主張自体失当である。よって、再抗弁事実は、いずれもこれを認めるに足りないもの又は主張自体失当である。