全 情 報

ID番号 06094
事件名 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 門前町事件
争点
事案概要  町から高圧受電設備の金網フェンスの張替工事を請負った者が感電死した事故につき、町に使用者責任があるとされた事例。
参照法条 民法415条
民法709条
民法715条
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 安全配慮(保護)義務・使用者の責任
裁判年月日 1987年6月26日
裁判所名 金沢地
裁判形式 判決
事件番号 昭和60年 (ワ) 213 
裁判結果 一部認容
出典 時報1253号120頁/労働判例510号69頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-安全配慮(保護)義務・使用者の責任〕
 2 以上の認定事実により、被告の責任の有無につき判断するに、原告はまず民法七〇九条、七一六条但書による責任を主張するところ、この主張は同法七〇九条による不法行為責任の主張において、その具体的注意義務の構成にあたって同法七一六条但書の法意を援用するものと解されるが、前記認定事実に照らすと、本件においては被告代表者たる町長自身の注意義務違反はみられず、被告に対し民法七〇九条による不法行為責任は問い難いものと解されるので、原告の右主張は採用できない。
 次に、原告は民法七一五条による責任を主張するので検討するに、請負契約においては、雇用契約とは異り、一般に請負人が注文者と支配従属関係に立つものではないけれども、それだからといって請負人において契約の履行にあたって生ずる損害をすべて甘受すべきいわれはなく、注文者の支配する場所において請負人がその契約にかかる作業をする場合には、当該作業の性質等に照らし請負人が損害を被ることあるべき危険を自ら冒さなければならない特段の事情のある場合を除いては、作業に先立ち、注文者において、かかる危険を除去すべきであるし、この危険が存するまま請負人が作業をしているのを認識した場合には、請負人に対しその作業を中止するよう命じ、もってその損害の発生を未然に防止すべき注意義務を負うものと解するのが相当であり、また注文者の被用者で当該請負契約の締結ないし履行においてその衝に当たった者も右と同様の注意義務を負うものというべきである。
 そして、右1に認定した事実によれば、被告の職員であり、本件請負契約の締結ないし履行においてその衝に直接当たってきたA校長やB主事において、被告の支配するC中学校内でDが本件受電設備に高圧電流が流れているにもかかわらず本件工事を施工しているのを視認したものであるが、右作業の性質等に照らしDにおいて右電流による感電の危険をあえて冒してまで本件工事を施工すべき特段の事情があったとは到底いいえないから、A校長やB主事は直ちにDに工事を中止させるべき注意義務を負っていたところ、これを怠り、よってDを感電死させたことが明らかである。
 従って、被告は、民法七一五条による不法行為責任として、Dの死亡に基づく損害を賠償する義務を負うものというべきである。