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ID番号 06113
事件名 譴責処分無効確認等請求控訴事件
いわゆる事件名 立川バス事件
争点
事案概要  経歴詐称を理由とする譴責処分につき、就業規則の定めがこのような処分を認めていないとして無効とされた事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 経歴詐称
裁判年月日 1990年7月19日
裁判所名 東京高
裁判形式 判決
事件番号 平成1年 (ネ) 1053 
裁判結果 一部認容
出典 時報1366号139頁/労経速報1416号3頁/労働判例580号29頁
審級関係 一審/東京地八王子支/平 1. 3.17/昭和61年(ワ)1978号
評釈論文 秋田成就・ジュリスト999号131~133頁1992年4月15日
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-経歴詐称〕
 2 控訴人は、本件が仮に前記就業規則五三条四号にいう「重要な経歴資格を偽ったとき」に該当するとしても、これを理由に譴責処分に付することは許されないと主張するので、まずこの点を検討する。
 (証拠略)によれば、被控訴人会社の就業規則においては、従業員の懲戒につき別紙のとおり定めていることが認められる。これによれば、従業員は、この就業規則の規定によるのでなければ、懲戒を受けることはなく(五〇条)、懲戒は、譴責、減給、格下げ、昇給停止、出勤停止及び懲戒解雇の六種とされ(五一条一項)、正当な理由のない単なる無断欠勤、勤務に関する手続その他届出の懈怠等比較的転微な秩序違反に対しては減給(情状により譴責又は昇給停止に止める。)をもってし(五二条)、正当な理由のない引き続き三〇日以上の欠勤、他人に対する暴行脅迫又は業務妨害等比較的重大な秩序違反に対しては懲戒解雇(情状により出勤停止又は減給若しくは格下げに止める。)をもってするもの(五三条)とされており、本件で懲戒処分の根拠とされた「重要な経歴資格を偽ったとき」(五三条四号)についても、原則として懲戒解雇を予定し、情状により、出勤停止又は減給若しくは格下げに止めることができる旨を規定していることが明らかである。このような懲戒に関する規定からみると、五三条は、懲戒解雇にふさわしい態様の非行を対象とした規定であり、懲戒の内容もそれに応じ、仮に情状酌量しても、出勤停止又は減給若しくは格下げに止めるものとして定められているのであり、更にそれを減じて譴責処分に付することは予定されていないものと解される。この点は、五二条一号が単に「正当な理由なしに無断欠勤したとき」を懲戒事由として、減給(情状により譴責又は昇給停止)処分に付すべきものとしているのに対し、五三条一号が、同じ無断欠勤であっても「引続き一四日以上に及んだとき」を懲戒事由として、懲戒解雇(情状により出勤停止又は減給若しくは格下げ)処分に付すべきものとしていること、あるいは五三条一一号において、「前条各号の一に該当し情状特に重いとき」を別個な懲戒事由として懲戒解雇処分等に付すべきものとしていること等からも窺うことができる。別言すれば、五三条においては、形式的には同条の懲戒事由に該当したとしても、その非行の態様・情状等に照らし譴責より重い懲戒処分に付したのでは処分として重すぎると判断されるような特別な事情が存する場合には、これを懲戒の対象外に置いているものと解さなければならない。そのことは、その実質からも言うことができる。そもそも、重要な経歴の詐称は、企業の労働力評価を誤らせ、企業をして本来採用すべきでなかった者を採用するに到らしめ、その結果企業秩序を混乱させるという点に着目して懲戒の対象とするものであるから、このような経歴詐称を犯した者に対しては、本来これを企業外に放逐すること、すなわち懲戒解雇を原則としたものと解されるのであって、事情によりその処分を減じるとしても、五二条列挙のものと同様に取り扱うことは就業規則の懲戒規定全体の趣旨に反するものと解されるからである。したがって、本件のように、就業規則五三条の経歴詐称に該当することを理由に譴責処分に付することは、就業規則に違反し、無効といわなければならない。