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ID番号 06117
事件名 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 愛知県教委(市立神屋小学校)事件
争点
事案概要  小学校長が学級担任をはずしたことに対する損害賠償請求につき、学級担任の決定は学校教育法二八条三項により校長の職務権限に属し、違法事由はないとされた事例。
参照法条 学校教育法28条3項
労働基準法2章
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 業務命令
裁判年月日 1990年11月30日
裁判所名 名古屋地
裁判形式 判決
事件番号 昭和57年 (ワ) 2082 
裁判結果 棄却
出典 時報1389号150頁/タイムズ752号101頁/労働判例577号43頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-業務命令〕
 普通教育においては児童生徒に教育内容を批判する能力がないこと、教育が児童生徒に対して強い影響力、支配力を有すること、児童生徒の側に学校や教員を選択する余地に乏しいこと、教育の機会均等を図るため教育の全国的な一定水準を確保する必要があることに鑑み、憲法二三条が大学におけると同じ意味での教授(教育)の自由を普通教育機関の教員に認めていると解することはできない。また、大学における学問研究、教授の自由を具体的に保障するものがいわゆる大学の自治であるから、教授の自由の認められない普通教育機関においては、法律に特段の定めがない限り学校自治は認められず、教職員会議に教授会と同一の権限を認めることはできないと解すべきところ、学教法には、学級担任を含む校内人事の決定権を教職員会議に付与する旨の規定はなく、かえって同法二八条三項に「校長は、校務をつかさどり、所属職員を監督する。」との規定があるのみである。
 また、憲法上教員の教育権限の独立を認める規定はなく、たしかに国民に教育を受ける権利を保障した憲法二六条の背後には、国民各自が学習をする固有の権利を有するとの観念、特に自ら学習できない子供はその学習欲求を充足するための教育を自己に施すことを大人一般に対して要求する権利を有するとの観念が存在していると考えられ、子供の教育を施す者の支配的権能ではなく、子供の学習をする権利に対応し、その充足を図りうる立場にある者の責務に属するものとしてとらえることができるのであるが、右の規定、さらには、教育は不当な支配に服することなく国民全体に対し直接に責任を負って行われるべきことを定める教基法一〇条一項から、当然に教員又は教員集団の教育内容を自由に決定しうる権限が導き出されるとはいえない。
 なお、学教法二八条六項は、教諭は自己の担任事項として児童の教育を執り行うことを定めているにすぎず、右規定から教諭の教育権限の独立を導くこともできない。
 したがって、校内人事の決定が教員集団によって自治的になされるべき法的根拠はなく、学級担任の決定も校務分掌の決定の一つとして、学教法二八条三項により校長の職務権限に属するものと解するのが相当であり、右の点に関する原告の主張は採用することができない。