全 情 報

ID番号 06150
事件名 雇用関係存在確認等請求/独立当事者参加/雇用関係存在確認等請求事件
いわゆる事件名 生活協同組合イーコープ・下馬生活協同組合事件
争点
事案概要  生協職員が他生協に移籍するに際してした移籍元生協から退職する旨の意思表示につき、右意思表示は移籍先生協からの採用を条件とするものであり、移籍が実現しなかったからなお移籍元生協との間に雇用契約関係があり、移籍元が賃金支払義務を負うとされた事例。
参照法条 労働基準法2章
体系項目 配転・出向・転籍・派遣 / 転籍
裁判年月日 1993年6月11日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成1年 (ワ) 14123 
平成2年 (ワ) 6490 
平成3年 (ワ) 5344 
裁判結果 一部認容・棄却
出典 労働民例集44巻3号515頁/時報1469号153頁/労働判例634号21頁
審級関係
評釈論文 村中孝史・民商法雑誌110巻2号391~398頁1994年5月/馬渡淳一郎・平成5年度重要判例解説〔ジュリスト臨時増刊1046〕217~219頁1994年6月
判決理由 〔配転・出向・転籍・派遣-転籍〕
 移籍の法的性質については、その実態が多様であるため、一義的に論定できるものではなく、具体的事案の事実関係に即して検討する必要があるところ、本件移籍についてみると、前記第一・二で認定した生協間の関係と本件移籍の経緯に照らせば、原告の参加生協での退職と被告生協での採用は、相互に条件づけられる一体的な関係にあるものと解するのが相当である。すなわち、本件移籍の場合、原告が被告生協への移籍を承諾をした時点では、移籍後の雇用条件、移籍期日ひいては参加生協の退職時期について、具体的には何も決定されていなかった段階のことであったこと、移籍後の雇用条件については、原告にとって重大な関心事であり、移籍承諾後の原告と被告生協間の交渉にもっぱら委ねられていたことは、前記第一・二で認定したとおりであり、原告が、被告生協の採否いかんにかかわらず、参加生協を積極的に退職することを希望していたというような事情もないこと、参加生協と被告生協は別法人であるから、原告を採用するか否かは、被告生協が自由に決定できる事項であることなどをも考え併せれば、参加生協を退職することを特に積極的に希望していなかった原告が、本件移籍を承諾した時点において、移籍後の雇用条件に関する多くの交渉事項を残しながら、参加生協から退職することのみを確定的に合意する意思を有していたとみることは困難というほかなく、原告は、被告生協に採用される限りで参加生協を退職する意思を有していたにすぎないものと認められる。他方、参加生協においても、生協間の関係と本件移籍の経緯に加えて、原告の移籍承諾後、参加生協は、平成元年八月一日付けで退職したものとして原告の退職を先行させたが、これも原告との退職時期に関する合意に基づくものではなく、参加生協が一方的に進めたものであり、かえって、参加生協が原告の移籍承諾から期日をおいた平成元年八月一日を退職日としたのは、被告生協における手続等をも考慮して定めたものであり、退職と採用が間断なく行われることが前提とされていたこと、参加生協A理事は、本件移籍には退職と採用の両方の意味合いがあった旨の供述をしていることからすれば、参加生協の立場からみても、参加生協の退職は被告生協の採用に伴うものという認識があったものと認められる。そうすると、本件移籍の事実関係の下では、参加生協との雇用関係の解消と被告生協の採用は、相互に条件づけられる関係にあるものと解するのが相当であるから、原告の参加生協に対する退職の意思表示は、本件移籍の実現すなわち被告生協の採用を条件とするものとみるべきであり、原告が被告生協から採用を拒否され、本件移籍が実現しなかったことは、前記のとおりであるから、原告と参加生協との間の雇用関係は依然として存続しているものと解するのが相当である。