全 情 報

ID番号 06176
事件名 休業補償不支給決定取消請求事件
いわゆる事件名 横浜南労基署長事件
争点
事案概要  自動車運転手のくも膜下出血により意識障害が残ったことにつき、業務起因性を否定した労基署長の処分が取り消された事例。
参照法条 労働者災害補償保険法12条の8
労働者災害補償保険法14条
体系項目 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 業務起因性
労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 脳・心疾患等
裁判年月日 1993年3月23日
裁判所名 横浜地
裁判形式 判決
事件番号 平成1年 (行ウ) 24 
裁判結果 認容(控訴)
出典 タイムズ824号163頁/労働判例628号44頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-業務起因性〕
〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-脳・心疾患等〕
 疾病と業務との因果関係をどうとらえるかについては、さまざまな考えがあるところであるが、これを被告の主張するように新認定基準の要件を満たさない場合には、医学上個別具体的に立証しなければならないとすると、本件の場合は、もともと現代の医学において解明されない部分の多い分野のことであるから、不可能な立証を強いることになる。しかし、この場合に要求される因果関係とは、労災補償制度との関係で必要とされる法的評価としての因果関係であって、医学的、自然科学的因果関係そのものではないから、医学的、自然科学的因果関係を一点の疑いもないほどに立証することができなくても、現代の医学からみてその因果関係が存在する可能性があり、他の事情を総合検討し、業務が疾病の原因となっていたとみられる蓋然性が証明されたときは、因果関係があるというべきである。そして、基礎疾病が原因となっている場合であっても、当該業務の遂行が当該労働者にとって精神的、肉体的に過重な負荷となり、基礎疾病をその自然的経過を超えて増悪させて発症させるなど、それが基礎疾病と共働原因となって生じたものと認められるときは、業務上の疾病というべきである。
 この見地に立って、先に述べたくも膜下出血の発症の機序、原告の職務の内容、職務の特殊性、職場環境、勤務時間その他原告に加えられた業務による負荷等を総合して検討すると、原告の疾病と業務の関係は、次のとおりであると認められる。すなわち、原告の血圧は正常値と高血圧の境界領域にあり、脳には先天的なごく小さな動脈瘤があったが、それらは加齢と日常生活等による自然的経過により脳血管疾患を生じさせるほどのものではなかった。それが、原告をめぐる職場環境と職務の性質からくる精神的緊張の連続、不規則かつ長時間の勤務による肉体的疲労の蓄積等により、発症当日の朝、家を出るころには、僅かの刺激によっても血圧が上がり、脳動脈瘤が破裂しやすい状態にまでなっていたところ、そこへ、対向車と衝突しそうになって急ブレーキをかけたことによる急激な血圧の上昇が加わり、脳動脈瘤が破裂してくも膜下出血を発症させたものとみることができる。
 そうすると、原告のくも膜下出血は、先天的血管病変である脳動脈瘤が一因となって生じたものであるが、過重な業務が原告にとって精神的、肉体的に過重な負荷となり、その基礎疾病をその自然的経過を超えて著しく増悪させて発症に至らしめたというべきであるから、右疾病は業務上の疾病であるというべきである。
 三 結論
 よって、原告のくも膜下出血には業務起因性がないとして休業補償費の支給を認めなかった本件処分は違法であり、その取消しを求める本訴請求は理由があるから、これを認容する。