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ID番号 06192
事件名 従業員地位確認請求事件
いわゆる事件名 高圓運輸事件
争点
事案概要  貨物運搬にかかわる原価精算給労働契約に基づき雇用された労働者が、右契約中の契約条項と異なる労働条件を求めたときは会社は雇用契約を解除できると定められている場合において、労働組合が交渉することは本件解除条項に該当しないとして地位の確認が認められた事例。
参照法条 労働基準法2章
体系項目 退職 / 合意解約
裁判年月日 1993年6月28日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成3年 (ワ) 8615 
裁判結果 一部認容
出典 労経速報1507号27頁/労働判例644号37頁
審級関係
評釈論文 香川孝三・ジュリスト1071号143~145頁1995年7月1日
判決理由 〔退職-合意解約〕
 1 前記及び右の事実によると、組合は、被告会社に対し、A班結成以来、団体交渉において継続して原価精算給労働者の正社員化の申入れをしてきたこと、右団体交渉当時、被告会社の原価精算給労働者六名中組合員は原告のみであったこと、組合は、団体交渉の場において、原価精算給労働者全員の正社員化を求める姿勢を示しながらも、最終的には原告の正社員化を求める旨の発言をしたこと、原告は、本件労働契約の改善を求める意思もあって組合に加入したので、組合の右要求を全く正当なものであると考えていたこと、被告会社のB総務部長は、六月二四日、原告に会って、原告自身も組合と同じく正社員化を要求する意思を有していることを確認した上、被告会社は、原告が組合を通じて正社員化を要求したものと認め、本件解除条項に該当するとして、原告を解雇したものということができる。
 そして、右の事実関係からすると、原告は、組合が原告ら原価精算給労働者の正社員化について交渉することを是認し、支持していたということはできるが、これをもって原告が自らの行為として組合に依頼しあるいは組合を通じて被告会社に対し、自己の正社員化を求めたものと認めることはできず、むしろ組合がその活動の一環として原告ら組合員の意を汲んであるいは原告ら組合員を代表して被告会社との間で原価精算給労働者の正社員化について交渉したものと認めるのが相当である。ほかに被告会社主張のように原告が組合を通じて正社員化を要求したものと認めるに足る証拠はない。
 2 すすんで、仮に、右の事実をもって原告が組合を通じて被告会社に正社員化を要求したものと評価し得るとして、本件解雇条項に該当するかどうかについて検討を加える。
 ところで、労働組合が、使用者に対して、団体交渉の場において、組合員を代表して、組合員の労働条件の改善・変更を求めて交渉することは、使用者においても尊重すべき労働組合及び労働者の基本的な権利であって、労働組合のこのような行動を理由に当該組合員に不利益を課することは許されるべきではないというべきである。他方、労働者が労働契約において、労働組合に対し、労働者の労働条件の改善・変更を求めることを依頼しないとか、右のような行為を行った場合は解雇することができるなどとの約定をしたとしても、それは労働組合及び労働者の右基本的権利に抵触するものとして、その効力は否定されるものといわなければならない。このような観点から、本件解除条項を合理的に解釈すれば、右条項は、組合が団体交渉の場において、組合員たる原価精算給労働者の正社員化を要求した場合、右要求が当該組合員の意思に沿うものであり、右組合員が組合を通じてこれを要求したものと評価し得るときには、右組合員を解雇できるという趣旨まで合意したものとは到底認めることはできない。そうすると、右の事実をもって原告が組合を通じて被告会社に正社員化を要求したものと評価し得るとしても、原告の行為は、本件解除条項に定めた解雇事由には該当しないものというべきである。
 のみならず、本件解除条項が、前記のような事実関係の下で原価精算給労働者である原告が組合を通じて正社員化を要求したとして解雇できるという趣旨まで合意したものであるとすれば、現行法上尊重されるべき前記権利を否定することに繋がる合意として民法九〇条により無効であるというべきである。
 3 よって、被告会社主張の解雇事由の存在を認めることができない。