全 情 報

ID番号 06215
事件名 公務外認定処分取消請求事件
いわゆる事件名 地公災基金香川県支部長(高松市職員)事件
争点
事案概要  高血圧症の基礎疾病を有する清掃工場業務課長であった市職員が帰宅後に脳出血で死亡したことにつき公務災害であるとして、公務災害に当らないとした基金支部長の不支給処分を争った事例。
参照法条 地方公務員災害補償法1条
体系項目 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 脳・心疾患等
労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 業務起因性
裁判年月日 1993年11月8日
裁判所名 高松地
裁判形式 判決
事件番号 平成4年 (行ウ) 3 
裁判結果 取消(控訴)
出典 労働民例集44巻6号809頁/タイムズ854号199頁/労働判例640号47頁
審級関係 控訴審/高松高/平 6.11. 1/平成5年(行コ)11号
評釈論文
判決理由 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-業務起因性〕
 「職員が公務上死亡した場合」とは、職員が公務に基づく負傷または疾病に起因して死亡した場合をいい、公務と死亡との間に相当因果関係が存在する場合でなければならないが、経験則に照らし当該公務に従事したことが相対的に有力な原因として作用し、死の結果を生じさせたことが必要で、また、これをもって足りると解すべきである。そして、当該職員の死亡原因が疾病に基づく場合には、公務が基礎疾病に作用して基礎疾病を急激に増悪させ本来の死亡時期を早める等、公務と基礎疾病が死亡の共働原因となっている場合には、相当因果関係を認めるのが正当である。
〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-脳・心疾患等〕
 清掃工場の平常業務にせよ、研修内容にせよ、これらを個別に取り上げるならば、それらを過重負荷であると断定するには躊躇を感ずる。しかしながら、前記二で認定したように、それまでの普通の勤務形態から清掃工場の騒音・温度差・悪臭の存在する厳しい職場環境のもとでの三直四交替という特殊な勤務に替わった正一にとり、二、三か月で仕事に慣れたとはいえ、約二年六か月の間に相当な疲労、ストレスが蓄積していたと推認できること、清掃工場の業務(しかも、出勤した一月七日以降の年始は繁忙期であった。)に加えて右と異質の研修を命ぜられ、同月七日の研修参加だけ本来の業務を免除されたほかは、同月八日、研修後午後二時から午後六時過ぎまで就寝後三直勤務をし、翌九日、三直勤務明けの五〇分後研修に入り、前日同様午後二時から午後六時過ぎまで就寝後三直勤務を経て、翌一〇日、右三直勤務明けの五〇分後に研修に入るという異常な激務を三日間連続し、その後の一〇日、一一日の夜には、睡眠をとるに不足のない時間があったとはいえ、八日から三日間続いた各三時間の勤務延長後のことであるし、Aの年令からしても一〇日、一一日の二晩の睡眠では十分な休養がとれず疲労が残ったまま一二日に出勤したと想定しても必ずしも不自然・不合理とは認められず、八日以降の期間、Aには疲労が続き、ストレスが集積していたと想定するに格別の支障がないこと、Aは準夜勤務を一二日の午後一〇時三〇分に高温の作業場で終えた後、夜分冷え込んでいる道を乗用車で帰宅し、入浴・夜食後の温まった体をストーブのない部屋におき翌一三日午前の研修に備えた予習を始めてから二〇分後に本件脳幹出血が発症したこと、Aが高血圧症でB判定(要軽作業)であり、本来の夜勤勤務を免除しないままで研修に参加させると高血圧症を増悪させる状況が惹起されるであろうことを予知するのは必ずしも困難ではないのに、職員の健康管理に十分な配慮をすべき責務のある当局者は、研修参加を命じた職員三〇名のうちA一人だけ職務専念義務を免除しなかったこと、本件発症に至るまでの近接した期間を通じて、他にAの持病である高血圧を急激に増悪させるべき事由を見出せないこと以上の点を考慮すると、Aの本件発症は、高血圧症の自然経過的な増悪によるものでなく、基礎疾患としての高血圧症が存在したところへ、清掃工場の業務に研修業務が長期間にわたり重なるという過重負荷が加わったためであり、この公務が、相対的に有力な共働原因となったものと認められ、したがって、Aの死亡と公務との間には相当因果関係があり、Aの死亡は公務上のものというべきである。