全 情 報

ID番号 06237
事件名 退職金支払請求事件
いわゆる事件名 朝日火災海上保険事件
争点
事案概要  「賃金増加額は退職金算出の基礎額には算入しない」旨の使用者と訴外組合との口頭の合意に基づいて退職金が計算され支払われたのは違法であるとして、賃金引き上げ額を含んだ退職時の本俸月額の退職金を請求した事例。
参照法条 労働基準法11条
労働基準法2章
体系項目 賃金(民事) / 退職金 / 退職金請求権および支給規程の解釈・計算
裁判年月日 1994年1月31日
裁判所名 最高二小
裁判形式 判決
事件番号 平成4年 (オ) 756 
裁判結果 一部破棄(差戻)
出典 労経速報1518号3頁/労働判例648号12頁
審級関係 控訴審/大阪高/平 3. 3.19/平成2年(ネ)1403号
評釈論文 荒木尚志・ジュリスト1055号157~159頁1994年11月1日/小俣勝治・季刊労働法171号163~166頁1994年7月/浜村彰・法律時報66巻11号86~89頁1994年10月
判決理由 〔賃金-退職金-退職金請求権および支給規程の解釈・計算〕
 上告人は、原審の口頭弁論において、昭和五四年度から昭和五七年度までの賃金引上額を退職金算定の基礎には算入しないとの条件の下で上告人は賃金引上げに応じることを組合と合意したこと、このことはその都度被上告人を含むすべての従業員に周知徹底していたこと、被上告人も右各年度の賃金引上げは右の条件の下でされるものであることを知りつつ賃上げ後の賃金を異議をとどめることなく受領していたのみならず、支店長等の立場において、退職する部下に対し、退職金は退職時ではなく昭和五三年度の本俸の月額を基礎として算定されるものである旨を説明していたことなどの事実を主張するとともに、右の事実関係の下では、被上告人の退職金は、昭和五三年度の本俸の月額を基礎として算定されるべきである旨を主張している。右の上告人の主張には、右事実関係の下では、当事者間の雇用契約において、昭和五四年度から昭和五七年度までの賃金引上額は退職金算定の基礎に算入しない旨の黙示の合意が成立するに至っていたという主張が含まれていると解すべきである。そうすると、上告人と組合との間の合意の効力が非組合員である被上告人には及ばないとする原判決の説示だけでは、原審は、右の主張の当否について何らの判断を示していないものといわざるを得ない。したがって、原判決には、この点に関する判断遺脱の違法があるものというべきであり、右違法が、判決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。この点の指摘を含むと解される論旨は理由があるから、原判決中上告人敗訴部分は、その余の論旨について判断するまでもなく、破棄を免れない。よって、民訴法四〇七条に従い、原判決中上告人敗訴部分を破棄し、右の点について更に審理を尽くさせるため、右部分につき本件を大阪高等裁判所に差し戻す。