全 情 報

ID番号 06245
事件名 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 甲子電研事件
争点
事案概要  元従業員が在職中に、企業情報を同業他社に売ったり、退職後に競業会社を設立したことが不法行為に当たるとして、会社が右元従業員に対して損害賠償を請求した事例。
参照法条 労働基準法2章
民法709条
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 競業避止義務
労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 労働者の損害賠償義務
裁判年月日 1994年2月24日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成4年 (ワ) 2300 
裁判結果 棄却
出典 労経速報1529号14頁/労働判例652号38頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-労働者の損害賠償義務〕
 前記認定事実によれば、被告がA電装から受けた入金一覧表の入金(A電装分)は、原告Xの了解を得ないでした交際費の清算として交付されたものであると認められる。また、B名義の預金口座にC電材から入金された三〇〇万円は、D電材の設立に関して被告がC電材から援助を受けたものであるが、C電材がこのような便宜を図ったのはE電材との対抗上採った措置であると推測することができるのであって、右金員の受領をもって、被告が原告会社の何らかの企業情報をC電材に提供したものと断定することはできない。
 もっとも、F工芸からの入金については、前記認定事実によれば、被告は、原告会社に勤務中、Gから個人的に金員の交付を受ける一方、実現はしなかったもののGの資金援助を受け原告会社従業員を引き込んで電子機器の製造販売の会社を設立しようとしたものであって、Gとの付き合いに気を配るべき立場にありながら、従業員としての節度に欠ける行動があったものということができる。被告がF工芸から受けた金員は、被告名義及びB名義の入金一覧表の入金を含めて、合計三〇〇万円を超える多額であり、原告らがGとの過去の経緯から被告の背任行為を疑うのは無理からぬところであるが、(人証略)及び被告本人尋問の結果によれば、被告は、右金員を、Gの意図がどうであったかは別として、H美研に勤務中にF工芸に対して顧客を紹介したことの謝礼を受ける気持ちもあって受領していたことが認められる。また、前記認定事実によれば、Gは、原告会社が獲得しようとしていた「I」の電光ニュース板工事の存在を察知し、「I」と直接交渉の結果、原告会社の予定代金より安い価格で右工事を受注したものと認められるが、Gが「I」の電光ニュース板工事の存在をいつどこからどのように察知したのかは、(人証略)によっても必ずしも明らかとならず、被告が何らかの関与をしたのではないかとの不審が残るものの、それ以上に、被告が原告会社と「I」との契約交渉内容をGに教えたことを認めるに足りる確たる証拠はない。
 なお、被告は、入金一覧表の入金のうちJ通信分は、J通信からの借入れであると主張しながら、同本人尋問においては、J通信の取引先のために個人的に用立てた金員の返済を受けたものであると供述し、右金員の趣旨が明らかではないが、いずれにしても、これを対価として被告がJ通信に対し原告会社の企業情報を提供したことを認めるに足りる証拠はない。
 3 以上によれば、争点1に関する原告の主張は理由がない。
〔労働契約-労働契約上の権利義務-競業避止義務〕
 D電材は、被告が原告会社を退職後、C電材及びE電材と同じ業種で営業活動を開始した。
 2 原告らは、被告が原告会社に在職中にD電材を設立する計画を立てたことが違法である旨主張するが、右認定事実によれば、D電材の目的は、原告会社ではなく、その子会社であるとはいえ別個独立の会社であるE電材の目的と競合するにすぎず、しかも、被告はD電材の取締役の地位に就いただけで、営業活動は、被告が原告会社を退職した後に行なわれているのであるから、被告がD電材の設立に当たったことが違法であるということはできない。