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ID番号 06256
事件名 雇用関係存在確認等・独立当事者参加・雇用関係存在確認等請求控訴事件
いわゆる事件名 生協イーコープ・下馬生協事件
争点
事案概要  生協間の移籍に関連して、移籍対象労働者が移籍先との雇用関係が成立しているとしてその確認を求めるとともに、右雇用関係が成立していない場合には移籍元との雇用関係が存続しているとして右確認を求めるとともに、右トラブルのために就労しなかった期間の賃金を請求した事例。
参照法条 民法625条1項
民法536条2項
労働基準法2章
労働基準法26条
体系項目 配転・出向・転籍・派遣 / 転籍
賃金(民事) / 賃金請求権の発生 / 就労拒否(業務命令拒否)と賃金請求権
賃金(民事) / 休業手当 / 労基法26条と民法536条2項の関係
裁判年月日 1994年3月16日
裁判所名 東京高
裁判形式 判決
事件番号 平成5年 (ネ) 2495 
平成5年 (ネ) 2511 
裁判結果 原判決変更,一部認容,一部棄却・却下(確定)
出典 労働民例集45巻1・2合併号102頁/労働判例656号63頁
審級関係 一審/06150/東京地/平 5. 6.11/平成1年(ワ)14123号
評釈論文
判決理由 〔配転・出向・転籍・派遣-転籍〕
 前記二で認定した事実によれば、控訴人は、参加生協から被控訴人生協への移籍を基本的に受け入れ、被控訴人生協と雇用契約を締結する方向で話し合いを進めていたものの、それはあくまで、控訴人の考えていたとおりの雇用条件が満たされるということが前提となっていたものであり、そのことは被控訴人生協側にも示されていたこと、しかし、本件では、それらの条件が結局折り合うに至らず、控訴人は、被控訴人生協が提示した移籍人事契約書への署名押印もしないまま、同年九月一日、被控訴人生協から採用を拒否する旨の通知を受けたのであるから、控訴人と被控訴人生協との間に雇用契約が成立したと認めることができないことは明らかである。
〔賃金-賃金請求権の発生-就労拒否(業務命令拒否)と賃金請求権〕
 本件のような雇用契約関係については、民法の特別規定として労働基準法二六条が適用されるところ(同条は、直接には休業の場合を規定したものであるが、解雇等、雇用契約の存否が問題となっている場合にも適用があると解される。)、同条は、労働者の労務の提供を要せずして使用者に反対給付の責任を認めた趣旨の規定であるから、控訴人が就労できなかったことが参加生協の責に帰すべき事由に基づくものとすれば、参加生協は、控訴人が労務の提供をしたか否かを問わず、控訴人に対し、賃金の支払義務を免れない。〔中略〕
 前記のように、控訴人の退職の意思表示は、被控訴人生協との雇用関係の成立を条件とするものであって、両者は相互に一体的な関係にあるものであり、被控訴人生協との間で確定的に雇用契約が締結されるまでは、参加生協との雇用契約が存続するものであったこと、このように控訴人の参加生協の退職はあくまで被控訴人生協の採用に伴うものであったことは参加生協の側でも認識していたにもかかわらず、参加生協は、被控訴人生協と必ずしも十分な連絡をとることなく、控訴人と被控訴人生協との間で確定的な雇用契約が成立したか否かを確認しないまま、一方的に控訴人を平成元年八月一日付で退職したものとして扱い、退職金の交付等、その後の一連の手続を進め、これによって、控訴人は、参加生協における就労の途を閉ざされたのであるから、結局、控訴人の参加生協への不就労は、使用者たる参加生協の責に帰すべき事由に基づくものというべきであり、控訴人は、参加生協に対し、同日以降の賃金請求権を失わないというべきである。
〔賃金-休業手当-労基法二六条と民法五三六条二項の関係〕
 参加生協は、参加生協が控訴人に対し、賃金支払義務を負うとしても、その額は労働基準法二六条を適用し、請求額の六割にとどめるべきである旨主張するが、同条が使用者の責に帰すべき事由による休業の場合、労働者に平均賃金の六割以上の手当の支払を命じているのは、労働者が使用者に対し、解雇期間中の全額賃金請求権を有すると同時に解雇期間内に得た利益を償還すべき義務を負っている場合、その決済手続を簡便ならしめるため、償還利益の額をあらかじめ賃金額から控除しうることを前提としたうえ、その控除の限度を、特約なき限り平均賃金の四割まではなし得る旨を定めたものと解されるのであるから、控訴人が右利益を得たことについての主張、立証の全くない本件において、控訴人の賃金請求権が、同条によって制限される理由はない。