全 情 報

ID番号 06271
事件名 雇用関係存在確認等請求事件
いわゆる事件名 三和ファイナンス事件
争点
事案概要  病院職員の給与の水増し請求をした病院事務長の懲戒解雇につき、極めて悪質とはいえず懲戒解雇事由に該当しないとされ、その間の賃金の支払いが命ぜられた事例。
参照法条 労働基準法24条1項
労働基準法89条1項1号
民法536条2項
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 職務上の不正行為
賃金(民事) / 賃金請求権の発生 / 無効な解雇と賃金請求権
裁判年月日 1994年4月15日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成4年 (ワ) 12520 
裁判結果 一部認容,一部棄却
出典 労経速報1528号21頁/労働判例665号64頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-職務上の不正行為〕
 【1】原告は、Aらに対する給与がその勤怠状況に応じて支払われるべきであると考え、平成三年九月分のAらに対する給与を六〇パーセント支給とすべきことを同年八月末の運営会議で提案して原告の友人でもあるB副院長の支持のもとにこれを決定し、更に、C院長が右運営会議の決定に反して原告に対し右給与の全額支給を指示した際にも、運営会議の決定に従うべきことを主張して、Aらに対する同年九月分の給与を同月二五日の給与支払日には六〇パーセントしか支給しないなど、本件病院の看護婦に対する給与がその勤怠状況に応じて支払われるべく努力をしていたこと、【2】原告は、本件給与請求に基づき被告から送金された金員のうちAらに支払わなかった分を封筒に入れて本件病院内の金庫に保管しており、これを私的に着服した事実はないこと、【3】原告は、金庫に保管していた金員を菓子代等に流用しているが、本件給与請求はもともとこれらの出費に対応するための金員を確保することを目的としてなされたものではなく、また、右流用にかかる出費が本件病院の経費として明らかに不相当なものといえないこと及び【4】本件の発端は、Aらが被告代表者に対し四において認定した内容の申立てをしたことにあるところ、Aらは、平成三年九月分の給与について原告がとった措置を不満とし、原告に対する報復を目的として、右のような申立てをしたものであり、被告は、本件解雇当時、本件病院内の金庫に保管されていた前記金員の存在を知らなかったため、原告が被告から送金された金員を私的に着服した旨のAらの申立てを全面的に信用して、本件解雇をしたものであること等の事情を認めることができ、これらによれば、本件給与請求をしたことは、確かに「不正不法の行為」ではあるけれども、「その情状が極めて悪質」であるとまでいうことはできず、結局、本件において懲戒解雇事由に該当する事実は存在しないというべきである。
 従って、本件解雇は、懲戒解雇事由が存在しないのになされた懲戒解雇処分であり、無効である。
〔賃金-賃金請求権の発生-無効な解雇と賃金請求権〕
 七 以上のとおりであるから、原告の請求は、平成三年九月二一日から平成四年八月一〇日までの給与の支払を求める限度において理由があり、右期間に対応する給与総額は三二〇万三二二五円である(被告給与規定によれば、被告における月額給与計算上の賃金締切日は二〇日であり、賃金締切期間の中途において退社した場合に支払われるべき賃金額は日割りで計算することとなっているところ、平成四年七月二一日から同年八月一〇日までの期間に対応する賃金額は二〇万三二二五円である)。