全 情 報

ID番号 06303
事件名 賃金請求事件
いわゆる事件名 ザ・チェース・マンハッタン・バンク事件
争点
事案概要  企業業績悪化を理由とする賃金の減額措置につき、従業員の同意が得られていないとして、差額分の請求が認容された事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法24条1項
体系項目 賃金(民事) / 賃金請求権と考課査定・昇給昇格・降格・賃金の減額
賃金(民事) / 賃金の支払い原則 / 全額払・相殺
裁判年月日 1994年9月14日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成3年 (ワ) 6873 
裁判結果 一部棄却(控訴)
出典 時報1508号157頁/労経速報1539号3頁/労働判例656号17頁
審級関係
評釈論文 黒津英明・平成6年度主要民事判例解説〔判例タイムズ臨時増刊882〕346~347頁1995年9月/佐藤敬二・民商法雑誌113巻1号158~165頁1995年10月/青野覚・季刊労働法175・176号259~261頁1995年8月
判決理由 〔賃金-賃金請求権と考課査定・昇給昇格・賃金の減額〕
〔賃金-賃金の支払い原則-全額払〕
 本件合理化の一環としての本件賃金調整は、各原告の賃金を被告において各原告の同意を得ることなく一方的に減額して支給するという措置を実施するものであって、各原告の賃金基準は原告ら所属の労働組合との間の労働協約によって定まっていたというのであるから、この内容は各原告と被告との間の労働契約内容となっていたといえる。
 ところで、労働契約において賃金は最も重要な労働条件としての契約要素であることはいうまでもなく、これを従業員の同意を得ることなく一方的に不利益に変更することはできないというべきである。
 この意味において、本件賃金調整は、被告が各原告の同意を得ることなく、一方的に労働契約の重要な要素を変更するという措置に出でたのであるから、何等の効力をも有しないというべきであり、このことは、本件賃金調整に被告主張の合理性が存したとしても異なることはない。
 被告は、本件賃金調整は、賃金規定六条に根拠を有する旨主張するが、同条は、前述した文言から明らかなとおり従業員の「昇給」について定めているのであって、賃金を減額支給することには何等言及していないばかりか、被告が従業員の賃金を従業員の同意なく一方的に減額するということは、当該従業員にとって一種の不利益処分であるから、これにはそれなりの明確な定めがなされていなければならないというべきところ、同条の定めは右のとおりであって、この点に関しては明確な定めをしていないから、同条は本件賃金調整の根拠規定とはなり得ず、したがって、被告の右主張は採用できない。