全 情 報

ID番号 06312
事件名 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 ヤンマーディゼル事件
争点
事案概要  地金等をスコップですくいホッパーに投げ入れる作業に従事していた構内下請労働者が腰痛症等について、注文者たる会社に対して損害賠償を請求した事例。
参照法条 民法415条
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 安全配慮(保護)義務・使用者の責任
裁判年月日 1985年2月8日
裁判所名 神戸地尼崎支
裁判形式 判決
事件番号 昭和50年 (ワ) 64 
裁判結果 一部認容
出典 労働判例448号31頁/労経速報1223号17頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-安全配慮(保護)義務・使用者の責任〕
 1 一般に雇用関係において、使用者は、被用者が労務に服する過程で、被用者に対し、その生命及び健康を危険から保護するよう労務給付の場所、施設若くは器具等の設備その他の条件を整えるべき義務を負っているものと解すべきであり、そして右のいわゆる安全配慮義務は、ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入った当事者間において、当該法律関係の付随義務として当事者の一方又は双方が相手方に対して信義則上負う義務として一般的に認められるべきである。
 2 ところで、原告らは、前記認定のとおり、A工業所に雇用された労働者であって、被告会社との間に雇用契約はなく、ただA工業所が被告会社から請負ったかけ作業に従事していた者である。そして請負においては、本来注文者が請負人の仕事の結果を享受するにすぎないものであるから、注文者は原則として当然には請負人の仕事の完成の過程における事故により請負人の被用者に発生した損害を賠償すべき責任を負うことになるものではない。しかしながら請負による仕事とはいえ、その仕事の内容からして、請負という契約形式によりながら、注文者が単に仕事の完成を請負人に一任してその成果を享受するというにとどまらず、請負人の雇用する労働者を自己の企業秩序の下に組み入れ、自己の管理する労働場所において、自己の管理する機械・設備を利用するなどして、自己の指揮・命令・監督の下におき、自己の望むように仕事の完成をさせ、実質的に注文者が当該労働者を一時的に雇用して仕事をさせると同様の効果をおさめているといった場合には、注文者と請負人の雇用する労働者との間に、実質的に使用従属の関係が生じていると認められるのであるから、その間に労働契約関係が存在しなくとも、この場合には、信義則上、注文者は当該労働者に対して、前記のような使用者が負う安全配慮義務と同様の安全配慮義務を負うものと解するのが相当である。〔中略〕
 右認定の事実によれば、被告会社は、原告らと直接の雇用関係にあるものではないが、原告らの作業現場、作業に利用される機械設備は被告会社の管理下にあり、原告らの作業は被告会社従業員の直接の指示・監督の下に行われていたというべきであるから、被告会社と原告らとの間には実質的に使用従属の関係があったものというべきである。従って被告会社は、原告らに対し、使用者と同様の安全配慮義務を負うべきものと解するのが相当である。〔中略〕
 被告会社は、かけ作業に従事していた原告らに対し、腰痛の発症を予防するために、かけ作業の取扱い時間や原告らの健康管理に注意して、原告らの身体を危険から保護し、安全に作業を続けられるよう配慮すべき義務を怠っていたものであり、それを知りうべき状態にあったというべきである。
 そうだとすると、被告会社は、原告らに対する安全配慮義務の履行を怠ったものであり、原告らの肩関節周囲炎、腰痛症の疾病は、右安全配慮義務の不履行に起因するものというべきである。