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ID番号 06314
事件名 損害賠償請求控訴事件
いわゆる事件名 富士ブロイラー事件
争点
事案概要  ブロイラーの食肉加工に伴い発生する残滓を処理するための乾燥機の爆発事故で工場の操業を廃止するに至ったブロイラー会社が、爆発事故の原因は労働基準監督署長が本件乾燥機の製造許可及び構造検査を適正に行わなかったことにあるとして、国家賠償法に基づき国を相手として損害賠償を求めた事例。
参照法条 国家賠償法1条
体系項目 労災補償・労災保険 / 審査請求・行政訴訟 / 審査請求との関係、国家賠償法
裁判年月日 1985年7月17日
裁判所名 東京高
裁判形式 判決
事件番号 昭和58年 (ネ) 1369 
裁判結果 棄却(確定)
出典 時報1170号88頁/タイムズ584号61頁/訟務月報32巻5号925頁
審級関係 一審/06310/静岡地/昭58. 4. 7/昭和50年(ワ)403号
評釈論文
判決理由 〔労災補償・労災保険-審査請求・行政訴訟-審査請求との関係、国家賠償法〕
 第一種圧力容器の構造検査及び落成検査の具体的な検査内容、方法については、右各検査が労働災害防止のためにのみ行われるものであることを除き、被控訴人の当審における主張1のとおりであることは、当事者間に争いがない。右争いのない事実によれば、被控訴人の担当官が行う右各検査は、製造者又は設置者が安全性を有するとして製造、設置した第一種圧力容器について、実際に安全性を有するか否かを基準(規則及び構造規格)に従つて確認するものであり、それ以上に包括的かつ綿密な検査をするわけではなく、積極的に危険を防止する措置を自らとるものでもない。
 以上述べた法一条の定める法の目的及び法、規則による諸規制の趣旨に構造検査、落成検査の具体的な検査内容、方法をあわせ考えれば、右諸規制は、当該圧力容器の使用される場所で労働に従事する者の生命、身体、健康を災害から保護することを目的とするものであり、少なくとも自ら右各検査の申請をした製造者又は設置者に対してまで第一種圧力容器の安全性を保障する趣旨のものではなく、したがつてまた、上記の者との関係においてまで、被控訴人が右諸規制を行う上での注意義務を負うことはないものと解するのが相当である。なるほど、右諸規制の結果として、設置者も、検査ずみの安全性の確保された圧力容器を使用して営業を継続することができるという利益、あるいは正しい検査が行われていれば申請が不合格となり、その結果使用に起因する損害を免れるという利益を享受することがあるものと考えられるが、それは、労働者の安全確保を目的とする法及び規則を適用した結果生じた事実上の利益にすぎないものというべきである。
 ところで、構造検査については、その申請者は第一種圧力容器を製造した者であり、本件においては、前認定のとおり控訴人ではなくA会社であるが、先に認定したとおり、控訴人は、昭和四九年に本件乾燥機を工場内に設置して操業することを計画し、訴外Bに設計を依頼し、昭和五〇年初めA会社に製造の注文をし、完成・設置された本件乾燥機について落成検査を申請しているのであり、右事実によれば、本件構造検査上の過失ないし違法性を論ずるにあたつては、被控訴人の担当官(静岡労働基準局長)は、同検査の申請人であるA会社と同様、控訴人との関係においても、国家賠償責任発生の要件となるべき注意義務を負うものではないと解すべきである。
 結局、本件構造検査及び落成検査に不適切なかどが存したとしても、これをもつて、控訴人が自ら製造を注文し、設置した本件乾燥機の事故により受けた損害について、右各検査に本件国家賠償の原因、根拠となる過失ないし違法性があるとすることはできないものというべきである。