全 情 報

ID番号 06317
事件名 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 山形県水産公社事件
争点
事案概要  船舶所有会社が、船舶の整備点検、機関の整備点検、冷凍装置の整備点検をそれぞれ別会社に発注し、各作業が行われていた際に、冷凍装置の整備点検を請け負った会社の従業員が冷凍装置バルブを誤って操作してアンモニアガスを噴出させ、機関の整備点検を請け負った会社の依頼により派遣され、同社の指揮下で労務に従事していた従業員が死亡したケースで、その遺族が、右船舶所有会社及びそこから整備点検を請負った各下請会社等を相手として損害賠償を請求した事例。
参照法条 民法415条
民法709条
民法715条
労働基準法2章
労働安全衛生法30条2項
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 安全配慮(保護)義務・使用者の責任
配転・出向・転籍・派遣 / 出向中の労働関係
裁判年月日 1986年10月31日
裁判所名 新潟地
裁判形式 判決
事件番号 昭和55年 (ワ) 431 
昭和55年 (ワ) 432 
昭和55年 (ワ) 433 
裁判結果 一部認容
出典 労働判例488号54頁
審級関係 上告審/06335/最高一小/平 5. 1.21/平成1年(オ)745号
評釈論文
判決理由 〔配転・出向・転籍・派遣-出向中の労働関係〕
 右認定事実によれば、被告公社は、A船の定期検査及び出漁前の整備点検等につき、船体関係の整備点検及び上架等を被告造船所に、機関関係の整備点検を被告センターに、冷凍装置の整備点検を被告Y1会社にそれぞれ分割して発注し、右被告らはそれぞれ発注にかかる作業を請け負ったこと、被告センターは、同被告が請け負った機関関係の整備点検作業につき、B事件被告Y2会社及び同Y3会社に対しそれぞれ作業員の派遣を依頼し、右B事件被告らはそれぞれ各三人の作業員を被告センターの業務に従事させるために派遣したことが認められる。ところで、右B事件被告らの作業員の派遣は、単に被告センターの作業について人手不足を補充するために行われた作業員の派遣依頼によるものであると認められるから、特定の仕事の完成を内容とする請負契約であると認定することはできず、右B事件被告らからの派遣従業員と右B事件被告ら及び被告センターとの関係は、被告センターとの間で新たに雇用契約を締結することなく、同被告の指揮命令の下にその業務に従事することが右B事件被告らへの労務の給付になることに鑑みると、いわゆる在籍出向社員類似の立場にあるものというのが相当である。〔労働契約-労働契約上の権利義務-安全配慮(保護)義務・使用者の責任〕
 被告Y4は、右の油抜きの方法のいずれをも用いず、また、アンモニア漏出の危険性のある作業を行うに際し、同一作業場所に他の作業員がいたにもかかわらず、他の作業員に対し、事前に右作業を行うことを知らせることも、退避若しくは防毒マスク等の準備をさせることも全く行わずに、以前漁船に乗り組んでいた時にアンモニアガスの漏出防止措置をとらないで行っていた油抜きの方法を踏襲して漫然とドレン抜き弁を開ける方法により油抜き作業を始め、その結果右の作業中アンモニアガスを噴出せしめ、本件事故が生じたものであるから、被告Y4には、油抜き作業において事前の安全措置を怠った過失がある。〔中略〕
 (1) 亡C及び亡Dは、被告センターに派遣された後もB事件被告Y2会社の従業員としての身分を維持し、亡E及び亡Fは、被告センターに派遣された後もB事件被告Y3会社の従業員としての身分を維持し、それぞれ各雇用主である右B事件被告らから給与を支給されながら、被告センターの指揮命令に従って同被告の業務に従事していたものであるから、いわゆる在籍出向社員類似の地位にあったことは前記3の(二)で判示のとおりである。してみると、亡C及び亡DとB事件被告Y2会社及び被告センターとの間並びに亡E及び亡FとB事件被告Y3会社及び被告センターとの間には、それぞれ使用従属の労働関係を発生せしめる契約関係としての労働契約が二重に成立しているものと認められる。
 (2) ところで、使用者は、労働契約上の付随的義務として労務提供者に対し、労務給付のための場所、施設若しくは器具、機材の管理または労務管理にあたって、労働災害等の事故の発生を防止し、労務提供者の生命及び健康等を労務上の危険から保護するよう配慮すべき義務があると解せられる。但し、右の安全配慮義務は絶対的なものではなく、当該労務給付の内容から通常予測される危険について負担するものと考える。
 (3) そこで、本件においてアンモニアガス漏出に対する被告センターの負うべき安全配慮義務の具体的内容について検討するに、被告センターの請け負った作業はA船の船底部にある機関関係の整備点検であるが、機関室内にはアンモニアを冷媒とする冷凍装置の回路の一部及び配管が設置されていることに鑑みると、アンモニアの危険性を教え、右作業によって冷凍装置等を損傷させてアンモニアガスが漏出しないように作業をするよう指導し、アンモニアガスが漏出する非常事態に備え、避難方法を確保し、または防毒マスク等の備え付けを行い、右作業と併行して同時に船内で冷凍装置の整備点検作業が行われ、それがアンモニアガスを取り扱う作業である場合にはその旨を作業員に知らせ、非常事態に対応できる措置を講ずべき義務があると解するのが相当である。〔中略〕
 (1) 労安衛法三〇条二項前段には、同一の場所において相関連して行われる仕事が二以上の請負人に分割発注され、かつ、発注者は当該仕事を自ら行わない場合は、発注者において、関係請負人の労働者の作業が同一の場所において行われることによって生ずる労働災害を防止するために、同条一項に規定する措置を講ずべき者として請負人で当該仕事を自ら行うもののうちから一人を指名しなければならない旨規定されて〔中略〕いる。
 (2) 前記三の1の(二)で判示のとおり、被告公社は、その所有するA船の定期点検及び冷凍装置の整備点検を被告造船所、同センター及び同Y1会社の三業者に分割発注し、右三業者の従業員がA船という同一作業場所で併行して作業を行うことになったものであるから、被告公社は労安衛法三〇条二項前段の特定事業の仕事の発注者に該当することが認められる。そうすると、被告公社は、A船の定期点検等を分割発注した者として、複数業者の作業員の作業によって生ずる労働災害の発生を防止するため、同法三〇条二項前段及びそれによる同法一項の措置を行なう義務があることになる。
 (3) (証拠略)によれば、被告公社は、A船の定期点検及び冷凍装置の整備点検の各作業についてそれぞれ請け負った業者に作業方法を一任しており、右業者間で作業手順等の調整を行うものと考えていたもので、労安衛法三〇条二項前段の措置をとっていないこと、被告公社はGを作業現場である被告造船所の船渠に出向かせていたものであるが、それは作業工程等の確認を行うだけにすぎなかったこと、Gは、作業内容の問い合わせ等があれば適宜対応をしていたが、具体的作業の指示は各作業の請負人において行い、Gが直接作業員に対し指揮監督をしたことはなかったこと、一方、被告造船所、同Y1会社及び同センターの間で作業調整のための打ち合わせが持たれたことはなく、被告センターの現場責任者HがGとの間で同被告の作業の進行等について打ち合わせをしていたにすぎなかったことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
 (4) 本件事故は、被告Y4が被告Y1会社の請け負ったコンデンサーの冷却用海水チューブの清掃作業の準備作業を行った際、被告Y1会社が請け負っていない(被告公社から発注されていない)作業であったコンデンサーからの油抜きを思い付き、独自の判断で勝手に行ったものであるが、被告公社において労安衛法三〇条二項前段に基づき指名した請負人により請負作業間の連絡調整、作業場所の巡視が行われていれば、被告Y4の行うべき作業の確認も明確にされ、思い付きによる作業がなされる事態を防ぎ得たものといえるところ、右(3)の認定事実によれば、被告公社は、A船の定期検査等の作業につき労安衛法三〇条二項の前段の措置をとらず、専ら請負業者に作業方法を一任し、自らは何らの手当をも施さなかったものであるから、分割発注における発注者としての労働災害防止措置を怠った過失があるというべきである。
 (二) したがって、被告公社は本件事故につき不法行為責任を負うものである。