全 情 報

ID番号 06359
事件名 保全異議申立事件
いわゆる事件名 シンコーエンジニアリング事件
争点
事案概要  経営不振を理由としてホテル事業を閉鎖して従業員を整理解雇したのに対して、解雇された従業員がその解雇の適法性を争った事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法89条1項3号
体系項目 解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の要件
解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の回避努力義務
解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇基準・被解雇者選定の合理性
解雇(民事) / 整理解雇 / 協議説得義務
裁判年月日 1994年3月30日
裁判所名 大阪地
裁判形式 決定
事件番号 平成5年 (モ) 50467 
裁判結果 認可
出典 労働判例668号54頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-整理解雇-整理解雇の要件〕
 解雇は、労働者に対し社会的経済的に極めて大きな影響を与えるものであり、しかも、本件のような余剰人員の整理を目的の一つとする解雇は労働者に特段の責められるべき事由がないのに使用者の都合により一方的になされるものであることから、たとえ、企業合理化のためにいかなる経営施策を講ずるかが経営者の固有の権限に属するとしても、その有効性の判断は慎重になされるべきである。そこで、右のような整理解雇が正当として許されるか、権利濫用として無効となるかは、(一)長期的な経営不振のため、経営合理化を行わなければ、企業が倒産するに至るなど回復し難い打撃を被ることが必定であり、これを回避するために事業閉鎖をする高度の必要性が存在したか、(二)使用者が経営努力を払うとともに、従業員の配置転換、一時帰休、希望退職募集等によって解雇回避の努力を尽くしたか、(三)被解雇者の選定が合理的であったか、(四)使用者が労働者に対し事態を説明して了解を求め、解雇の時期、規模、方法等について労働者の納得が得られるように努力したか(解雇手続の相当性、合理性)という観点から判断されるべきである。そこで、以下において、右の観点から本件解雇の有効性について検討する。
〔解雇-整理解雇-整理解雇の回避努力義務〕
 債務者は、経費削減、仕入先への支払条件の変更等により、解雇回避努力をしたと主張する。
 しかし、前記認定のとおり、平成二年春ころには、経営コンサルタントによる報告書を受領したというが、いかなる内容のものであったか明らかでないし、それをどのように実行しようとしたのか、その結果がどうであったのか等について具体的には全く明らかにされていない。
 また、とりわけ人件費の削減が必要であった点について、債務者は、人員を他の部門に回す余裕がなかったと主張するが、具体的条件を提示した希望退職の募集、一時帰休等について具体的に検討した形跡は見られない。
〔解雇-整理解雇-整理解雇基準〕
 前記第二の一5で認定したとおり、債務者は、有限会社Aへの就職あっせんについては、パートタイマーあるいはアルバイトとしてしかできないとした上で、債権者らを除く希望者については全員あっせんしたが、債権者らは団体交渉において正社員としてのあっせんを強く希望したため、あっせんしなかったことが認められる。しかし、疎明資料によれば、平成三年八月分の賃金については、社会保険料の控除はなされていないものの、社員とパートタイマー、アルバイトの区別がなされていること、一〇月分の賃金からは、一部の社員について社会保険料が控除され始め、一一月からは、正社員全員について控除が開始されたこと、BとCについては、八月一日から雇用保険に加入しているため、一〇月に三か月分の保険料を請求されたことが一応認められる。これらの事実からすると、八月一日の時点で、正社員としての雇用が行われたというべきである。これに対し、Dは、ホテルがなかなか売却されないため、ホテルとして継続営業していく必要から一〇月から正社員としたと説明する。しかし、経済情勢がなかなか好転しない状況にあって、営業譲渡後二、三か月でホテルの売却ができることを前提として雇用したというのはおよそ考えられず、採用できない。他方、E、Fらが、本件労働組合を嫌悪する言動をとっていたことからすると、債権者らをその希望どおりに正社員としてあっせんすることができたにもかかわらず、あっせんせず、解雇したことが一応認められ、被解雇者の選定に合理性があったものと一応にしろ認めることはできない。
〔解雇-整理解雇-協議説得義務〕
 多数従業員の生活の基盤を預かる使用者にとっては、事業閉鎖を決定する以上、従業員に対しその旨を明確に表明しその理由及び必要性についても十分に説明することが求められているというべきところ、前記認定によれば、本件労働組合の要求にもかかわらず、経理関係の資料等の公開、事業閉鎖の理由や必要性についての客観的資料を伴った具体的説明がなされた様子はうかがえない。したがって、解雇手続の相当性・合理性を一応にしろ認めることはできない。
 5 以上からすれば、本件解雇当時、債務者のホテル事業がかなり切迫したものであったことは一応認められるものの、事業閉鎖を行わなければならないほどに会社の経営が危機的状況にあったとまでは一応にせよ認めることができない。よって、本件解雇は正当なものであったとはいえず、解雇権を濫用するものとして無効であるというべきである。