全 情 報

ID番号 06393
事件名 地位保全等仮処分命令申立事件
いわゆる事件名 近藤化学工業事件
争点
事案概要  就業状況が著しく不良としてなされた解雇が有効とされた事例。
 学歴詐称は重大な詐称とはいえないが、職歴及び家族構成を偽ったことは「重要な経歴を偽り、その他不正な方法を用いて採用された時」に該当するとして、右を理由とする解雇が有効であり、解雇権の濫用には該当しないとされた事例。
参照法条 労働基準法2章
民法1条3項
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 経歴詐称
解雇(民事) / 解雇事由 / 職務能力・技量
解雇(民事) / 解雇事由 / 業務命令違反
解雇(民事) / 解雇権の濫用
裁判年月日 1994年9月16日
裁判所名 大阪地
裁判形式 決定
事件番号 平成6年 (ヨ) 225 
裁判結果 却下
出典 労経速報1548号33頁/労働判例662号67頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-解雇事由-職務能力・技量〕
 そして、右1において疎明された事実に照らせば、債権者の就業状況は著しく不良で、就業に適しないと認められる場合に該当するものといわざるを得ない。
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-経歴詐称〕
〔解雇-解雇事由-業務命令違反〕
 2 ところで、(証拠略)によれば、債権者が、右のとおり学歴を詐称したのは、中学校卒業であることを恥じたためであることが疎明されるところ、債務者は、昭和六〇年三月以降は、高卒以上の学歴の者でなければ採用しない方針である旨主張する(〈証拠略〉にも、これに副う部分がある。)。しかし、(証拠略)によれば、右の時点以降も、高卒未満の学歴の者が採用されていることが疎明されるから、債務者において真実この学歴要件を重視していることについては疑問があり、この点は、少なくとも、就業規則五五条三号所定の「重要な経歴」にあたるとすることはできない。
 しかし、職歴については、A株式会社への入退社の事実をことさらに偽っているのは、その心情は理解できないではないにせよ、債務者による従業員の採用にあたって、その採否や適性の判断を誤らせるものであり、使用者に対する著しい不信義に当たるものといわざるを得ない。
 また、家族構成を偽り、扶養手当の支給を受けていたことは、詐欺罪(刑法二四六条一項)にも該当する行為であり、その不正には著しいものがある。
3 したがって、債権者が右1のように職歴及び家族構成を偽ったことは、就業規則五五条三号所定の「重要な経歴を偽り、その他不正な方法を用いて採用されたとき。」にあたるものというべきである。
〔解雇-解雇権の濫用〕
 前記第一の二で疎明された基本的事実関係のとおり、債務者が、同年七月六日に、一旦債権者を腰痛再発のおそれを理由として解雇したことに照らせば、本件解雇においても、腰痛の問題を抱える債権者を雇用し続けることについての負担を回避する目的も併存していることが強く窺われる。
 しかし、前記で疎明されたとおり、右の解雇は債務者において撤回されたところ、前記のように、債権者の復職後、従前と異なる掃除等の軽作業に従事させたのは、債権者の腰痛を慮ってのことであることは容易に推認され(なお、このことは〈証拠略〉からも窺われる。)、このことが、特段、債権者を退職に追い込むための嫌がらせであったとの疎明はない。また、債権者は、前記一及び二で疎明された就業状況不良及び経歴等の詐称の事実は、本件解雇後に調査あるいは証拠を捏造した上、本件仮処分命令申立事件において解雇事由として付加したものにすぎず、本件解雇時においては、もっぱら、腰痛再発のおそれのある債権者を排除する目的に出たものであると主張し、その根拠として、(証拠略)(債務者代理人の申出に基づく徳島県立B高等学校あての弁護士法二三条の二第二項に基づく照会書)及び(証拠略)(右に対する回答書)の申出が、本件解雇後である平成六年一月六日付けでなされていることを指摘する。しかし、この申出自体が本件解雇後になされたからといって、右解雇時には学歴詐称の事実は解雇事由となっていなかったと直ちに断ずることはできず、むしろ、(証拠略)の「申出の理由」欄の記載に照らせば、債務者は、右申出以前に、債権者の学歴詐称の事実を把握していたことが明らかであるから、債権者の右主張は採用できない。
 そして、本件解雇時において、前記のような就業状況不良及び経歴等の詐称の事実も解雇の理由となっていた以上、仮に、腰痛再発のおそれを抱える債務者(ママ)を排除する目的が併存していたとしても、このことをもって、本件解雇が、解雇権の濫用にあたるものとまでいうことはできない。