全 情 報

ID番号 06406
事件名 給料等請求事件
いわゆる事件名 小山商事事件
争点
事案概要  月額一五〇万円の給与につき、労働の対価としての性質以外に男女の特別な関係に基づくものが含まれているとの被告の主張につき、債務の本旨に従った労務の給付がなされているとして、賃金請求が認容された事例。
 退職金の請求につき、取締役の地位が形式的なものに過ぎず、実際には従業員であったと認める証拠はなく、退職金を支給する慣行が存在していたともいえないとして、右請求が却けられた事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法89条1項3号の2
民法632条
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 債務の本旨に従った労務の提供
労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 労働慣行・労使慣行
賃金(民事) / 賃金請求権の発生 / 債務の本旨にしたがった労務の提供
賃金(民事) / 退職金 / 退職金請求権および支給規程の解釈・計算
裁判年月日 1994年11月7日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成5年 (ワ) 149 
裁判結果 一部認容
出典 労働判例674号42頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-債務の本旨に従った労務の提供〕
〔賃金-賃金請求権の発生-債務の本旨にしたがった労務の提供〕
 1 賃金として請求し得る金額
 原告の給与が昭和六一年二月分から月額一五〇万円に増額改定されたことは前記第二の一3のとおりであり、そうすると、原告の本件請求にかかる期間のうち、平成三年一月分から同年九月分までの給与債権額は、原告主張のとおり一三一五万〇六一八円(この金額は、一五〇万円×九か月=一三五〇万円を超えない。)とするのが相当であり、また、同年一〇月分から平成四年二月分までの給与債権額は七五〇万円(一五〇万円×五か月)となる。
 被告会社は、右一五〇万円には労働の対価としての性質以外に、原告とAとの特別の関係に基づく対価の性質がある旨を主張している。しかし、原告本人尋問の結果によると、原告とAが肉体関係を持ったのは、昭和五七、八年ころであるというのであるから、給与を一五〇万円に増額した時期とは符合せず、被告会社主張のような特別の関係に基づく対価であるとは認め難いし、仮にそのような一面があるとしても、これを労働の対価と金額的に区分することはおよそ不可能であって、結局、被告会社の一部棄却をすべき旨の主張は採用することができない。
 2 債務の本旨に従った労務提供の有無
 被告会社は、原告が債務の本旨に従った労務を提供しなかった旨を主張している。しかし、原告本人尋問の結果によると、原告は、原告の未払給与請求にかかる期間、被告会社に出社し、B会計事務所の公認会計士の指導のもとで、会計帳簿の記帳、入出金の収扱いなどを含む経理全般の業務を経理担当者として普通に行っていたことが認められ、そうすると、原告は、債務の本旨に従った労務を提供していたといえるのであって、原告の給与債権は発生したというべきである。被告会社は、会計帳簿の記入の不備や使途不明金の存在を指摘しているが、証拠上、そのような事実は認められない。
 3 被告会社の弁済の有無
 本件において、被告会社が原告の請求している給与を原告に支払ったことを認めるに足りる的確な証拠はない。因みに、平成三年一月分から同年九月分までの原告の給与については、被告会社の平成三年九月の決算書(B会計事務所公認会計士作成)に一三一五万〇六一八円が未払である旨が記載されている(〈証拠略〉)。
 被告会社は、給与が支払済みである根拠として、未払であれば、原告が生活費をどのように工面したか疑問であるとしているが、証拠(〈証拠・人証略〉)によると、原告は、C信用組合などの金融機関から個人で融資を受けるなどして生活費を捻出していたことが認められるのであるから、被告会社の主張は理由がない。
 4 以上のとおりであるから、原告の未払給与の請求は理由がある。〔賃金-退職金-退職金請求権および支給規程の解釈・計算〕
〔労働契約-労働契約上の権利義務-労働慣行〕
 原告は、被告会社において従業員が退職する場合、退職金を支給する慣行があったと主張しているが、本件に顕れた証拠を子細に検討しても、そのような慣行を認めることはできない。
 もっとも、D及びEが取締役を辞任した際、各人の本給の一〇か月分に相当する退職金が支給されたことは前記第二の一4のとおりであるが、本件において、原告主張のように、右両名の取締役の地位が形式的なものにすぎず、実際には従業員であったと認めるに足りる証拠はないし、また、同人らに対する退職金の支給の事実をもって、退職金を支給する慣行が存在するとは到底いえない。
 そうすると、原告の退職金請求は、原告が被告会社を退職したかどうかの点について触れるまでもなく、排斥を免れない。