全 情 報

ID番号 06442
事件名 退職金請求事件
いわゆる事件名 シーアールシー総合研究所事件
争点
事案概要  「会社は従業員に対し他の会社または団体に出向または派遣して勤務させることがある」旨の規定により、本件では赴任拒否の理由は認められず、出向に応じる義務があったとされた事例。
 出向命令を拒否すると懲戒解雇になることを暗にほのめかしたことは認められるが、本件退職は退職勧奨によるものとはいえず、自らの都合により退職を選んだもので自己都合の退職金を受給できるにとどまるとされた事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法89条1項3号の2
体系項目 配転・出向・転籍・派遣 / 出向命令権の根拠
退職 / 任意退職
退職 / 退職勧奨
裁判年月日 1995年3月6日
裁判所名 名古屋地
裁判形式 判決
事件番号 平成6年 (ワ) 517 
裁判結果 棄却
出典 労経速報1559号27頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔配転・出向・転籍・派遣-出向命令権の根拠〕
〔退職-任意退職〕
〔退職-退職勧奨〕
 2 被告の就業規則第一四条には、「会社は従業員に対し他の会社または団体に出向または派遣して勤務をさせることがある」と規定されており(書証略)、被告の従業員は、特段の事情がない限り、被告からの出向命令に従うべき義務を負っているものと認められるところ、以上の認定事実によれば、原告に対する出向の内示には首肯するに足りる目的と必要性が認められ、その手続についても特に瑕疵の存在を認めるには足りないこと、原告が名古屋市内に自宅を所有するということだけで、名古屋から新幹線で一時間余りの距離にある大阪への赴任を拒否できる理由とはなり得ないというべきであることから、その内示どおりの出向命令が被告から発令された場合には、原告としてはこれに従うべき義務があったというべきである。
 そして、規程にいう「会社の勧奨により退職する場合」とは、被告がその従業員に対し、解雇という手段を選ばず任意に自ら退職するようその決意を固めさせる目的をもって退職を勧め、その結果従業員がこれに応じて退職する場合を指すものと解すべきところ、前記認定事実に照らすと、被告としてはあくまでも原告に対してA株式会社への出向を求めたのであって、原告に不合理な出向を強要して任意退職に追い込む目的があったものとは認め難いというべきである。
 被告のB支社長が原告に対し、出向命令を拒否すれば懲戒解雇になることを暗にほのめかしたことは前記認定のとおりであるが、これは原告に対する出向命令に合理性が認められる以上、これを原告が拒否すれば業務命令拒否を理由とする懲戒解雇処分が当然に予測され原告にとっては最悪の事態となることから、原告の上司として将来予測される事態を原告に的確に認識させ原告に出向に応ずるよう翻意を促すためになされたものであるというべきであり、出向を口実として原告に退職を強要したとする原告の主張は採用することができない。
 3 そうすると、本件退職は被告の勧奨による退職ではなく、原告自らの都合により退職の道を選んだものというべきであるから、その退職金額は一七八万六六九〇円なるが、その金額が既に被告から支払ずみであることは前記説示のとおりである。
 したがって、本件退職が被告の勧奨による退職であることを理由とする原告の本訴請求はすべて理由がない。