全 情 報

ID番号 06470
事件名 地位保全等仮処分申立事件
いわゆる事件名 高澤システムサービス事件
争点
事案概要  顧客から預ったワープロ・ソフト等を持ち出し、一か月程度自宅に置いていたこと等を理由とする懲戒解雇につき、懲戒権・解雇権の濫用に当たり無効とされた事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
民法1条3項
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒権の濫用
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 職務上の不正行為
裁判年月日 1994年11月25日
裁判所名 大阪地
裁判形式 決定
事件番号 平成6年 (ヨ) 2083 
裁判結果 認容,一部却下
出典 労経速報1556号16頁/労働判例674号28頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒権の濫用〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-職務上の不正行為〕
 1 争いがない事実並びに本件疎明資料及び審尋の全趣旨によれば、本件ソフト及び本件マニュアルは、実行用のソフトを作るなどのために債務者の顧客であるA会社から預かり保管中のものであること、前判示の債務者の営業形態からすれば、顧客からソフトを預かることもあり、その取扱には慎重を期することが求められ、それが債務者の信用に大きな影響があること、債務者では就業規則を設けるほか、Bが日頃から債権者を含む従業員に対し、会社の物品はもとより、顧客からの預かり保管中のものを社外に無断で持ち出したり、複製することを厳しく禁じてきたこと、債権者もその点は認識し、本件ソフト等を自宅に持ち帰ることをBに願い出ても到底許されないであろうことを知りつつ、無断で持ち帰ったこと、本件ソフト及び本件マニュアルは、返却されるまで一か月程度の間、債権者の自宅に置かれていたこと、債権者は、返却に際して、Bに対し、虚偽の理由を述べたことなどの事情が認められる。
 2 しかし他方、本件疎明資料及び審尋の全趣旨によれば、本件ソフトは、古いバージョンであったこと、本件ソフトが収められているフロッピーディスクには顧客の個別データや情報等は入っておらず、仮に破損、紛失があっても代替品の入手は可能であること、債権者による本件持ち帰り行為によって債務者におけるA会社関係の業務に具体的な支障が生じるまでには至らなかったこと、債権者の本件持ち帰り行為がA会社やその他の債務者の顧客に知れるなどして債務者の信用が毀損されるという実害は生じていないこと、債権者に本件ソフト及び本件マニュアルを領得してしまう意図があったとまでは断定できないこと、無断持ち帰りの事実や虚偽の弁解をしたことについては、債権者としても反省の情を示していることなどの事情も認められる。
 3 以上を総合すれば、確かに、債権者の本件行為は債権者が考えるほど軽微なものではなく、その点で債権者の認識に甘さがあると言わざるをえず、他の従業員を指導するなどの立場にあった債権者が右のような行為をしたことは不当かつ不誠実であるとの非難は免れないというべきであって、債権者が債務者の就業規則に基づく懲戒処分に処せられること自体はやむをえないところである。しかし、右判示の全事情を考慮すれば、直ちに従業員の地位を失わせ、かつ、労働者にとって重大な不利益をもたらす懲戒解雇処分に処するのは、債権者の行為と本件処分の均衡から考えても、いささか重すぎるものと解され、本件懲戒解雇処分は、債務者の懲戒権、解雇権の濫用と認められ、無効であるといわざるをえない。