全 情 報

ID番号 06500
事件名 損害賠償請求控訴事件
いわゆる事件名 全税関大阪訴訟事件
争点
事案概要  全国の税関に勤務する職員により組織されている労働組合の支部およびその組合員が、非組合員と比較して昇任・昇格等について差別を受けたとして、非組合員との間に生じた給与の差額、慰謝料等の支払いを求めた事例。
参照法条 国家公務員法27条
国家公務員法108条の7
国家賠償法1条
体系項目 労基法の基本原則(民事) / 均等待遇 / 信条と均等待遇(レッドパージなど)
労働契約(民事) / 人事権 / 昇給・昇格
裁判年月日 1995年2月9日
裁判所名 大阪高
裁判形式 判決
事件番号 平成4年 (ネ) 2265 
平成6年 (ネ) 292 
裁判結果 上告
出典 労働民例集46巻1号6頁/時報1550号8頁/タイムズ894号54頁/訟務月報42巻4号691頁
審級関係 一審/06024/大阪地/平 4. 9.22/昭和49年(ワ)2701号
評釈論文
判決理由 〔労基法の基本原則-均等待遇-信条と均等待遇(レッドパージなど)〕
〔労働契約-人事権-昇給・昇格〕
 税関当局においてその職員に対し昇給等の処遇をなすに当たっては、給与法やその実施要綱の人事院の規則に規制され、その規制の趣旨は職員の勤務成績を適正に評価し、これに見合った処遇をなすべきであるというに尽きるものであるが、この場合、勤務成績は勤務実績、執務に関連してみられた性格、能力、適性を総合して評価され、その評価及びこれに対しどのような昇給等の処遇をなすかの判断は、右のような広範な事情等を総合して考慮してなされるものである以上、平素から庁内の事情に通暁し、部下職員の指揮監督の衝にあたる者である税関長の裁量に任されていると解するのが相当である。しかし、右の裁量は、恣意にわたることは許されないことは当然であるが、右評価や処遇等が社会観念上著しく妥当性を欠き、裁量権を付与した目的を逸脱し、これを濫用したと認められる場合でない限り、その裁量権の範囲内にあるものとして違法にはならないものというべきである。
 2 そこで、右の点をも斟酌して考察するに、前記認定のとおり、右被控訴人らについては、本件係争期間中において、その各対象の非原告組合員(昇給等の処遇が最も低い者)と勤務実績が同等であると認めることは困難であり、むしろそれよりも低いことが窺われないでもないこと、全員が非違行為に及んで、ほとんどの者がこれにつき処分され、その期間はほとんど本件係争期間の全域に及び、回数は多数で、態様は執拗、過激で、税関職員に強く要請される遵法精神に著しく欠け、また概して休暇日数は多く、そのため、右被控訴人各人の執務に関連してみられた性格(責任感等)、能力、適性はかなり劣悪であると評定されても止むを得ないものであり、大阪税関当局においてそのような評定をされたことが十分推認できること、なお、右各非違行為の目的が組合活動にあるとしてもそれによって右行為が正当化されないことはいうまでもないところであり、また右評定は、右被控訴人らが被控訴人組合員であることやその正当な活動をしたことを理由とするものではないから、国家公務員法一〇八条の七に違反しないものであること、更に、前記認定の事実によれば、右被控訴人らのうちには、非違行為に及んだ後の近接した日に昇給等をしているものがあるが、非違行為とこれに対する懲戒等の処分との間には直接的な関連性があることは当然ではあるけれど、昇給等の処遇は、過去に遡り、また将来を展望する等して各職員の勤務実績や執務に関連して見られた性格、能力、適性等を総合して評価がなされるものであり、したがって、非違行為の有無やその態様は右総合評価の一つの事情にすぎなく、またその際の昇給等の人数枠、予算等にも配慮して昇給等が決定されるものであるから、非違行為と右昇給等との間に必ず関連性があるとはいい難く(非違行為に及んだ者でも他の点をも考慮して総合評価して、昇給等が相当であるとの判断に達する場合もあり、またその際の昇給人数や予算の枠内での選別上他により勤務成績が劣る者がいる場合には右非違行為者に対し昇給等の処遇を決定することもあると考えられ、なお、前記認定のとおり、右被控訴人らのなした非違行為はほとんど被控訴人組合の活動に関連してなされたものであるので、右非違行為をなしているにもかかわらず、昇給等の処遇がなされているのは、むしろ、前記当局が被控訴人組合を敵視していない証左であるともいえる。)、したがって、前記当局が右被控訴人らに対する昇給等の処遇に当たって右非違行為を考慮していないということはできないこと、そして、右被控訴人ら各自に当たってその各前記対象者と比較してその処遇を検討してみるに、本件係争期間の当初において既に格差の生じている者については、その過去にそれなりの事由があり(休職等)、これが右係争期間中の処遇の格差に影響していると推認でき、また前記認定の諸事情により認め得る右各人の勤務実績、執務に関連して見られた性格、能力、適性をその各対象の非原告組合員(昇給等の処遇が最も低い者)と比較してみても(右対象者にはこれらのマイナスに評価される事情はない。)、その処遇がこれらの者より低いのは、同人よりもその各勤務成績が劣るためであると評価された結果であることが十分推察でき、その評価及びこれに対する処遇は大阪税関長に任された前記裁量の範囲に属するものであるということができること、なお、右被控訴人らの昇給等のうちには、それがその非違行為の回数や態様、休暇日数に鑑みても他と比較して遅すぎると見られないでもないものがあるが、前記説示のとおり、これらは昇給等を考慮する一事情にすぎないので、これらの事情と昇給等が機械的に比例してなされるとはいい難く、右処遇が税関長の裁量の範囲内に属することや他に右処遇の不当性を的確に裏付ける証拠もないことを考慮すると、右の実状だけから右処遇が差別意思に基づくと断定することは困難であること、また、本件の場合、右被控訴人らと他の職員とを全体的総合的に比較検討してみても、必ずしも正鵠を得た正しい結論を見出すことにならないことは争点一において既に判示のとおりであること、そこで、以上の諸点を斟酌すると、右評価及びこれに対する処遇が大阪税関長の右裁量権を逸脱した、差別意思(被控訴人組合員であることやその正当な活動をしたことを理由にする差別)に基づきなされたものであると認めることは困難であるといわなければならない。