全 情 報

ID番号 06522
事件名 配転命令無効確認等請求事件
いわゆる事件名 JR西日本(糸崎運転区)事件
争点
事案概要  岡山鉄道管理局府中電車区において運転手として勤務していた従業員(国労組合員)が、国鉄の分割民営が行われる直前に糸崎運転区に運転手として勤務するように転勤命令を受け、また、国鉄の分割民営が行われた直後の昭和六二年四月一日には、同転勤命令と同一職場、同一職種での勤務を命じる旨の配属通知を受け、その後も、清掃等の雑務作業、売店勤務等の勤務指定を受けたのに対し、右転勤命令、配属通知、勤務指定が不当労働行為に該当するとともに、転勤命令、配属通知は人事権の濫用である等として配転命令無効確認等を求めた事例。
参照法条 労働基準法2章
労働組合法7条1号
体系項目 配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令の根拠
裁判年月日 1995年5月10日
裁判所名 広島地福山支
裁判形式 判決
事件番号 昭和63年 (ワ) 280 
裁判結果 棄却
出典 労働判例676号26頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令の根拠〕
 使用者が労働者に対し労働契約に基づき命じることのできる業務命令の内容は、労働契約に明記された本来的業務ばかりではなく、労務の提供が円滑かつ効率的に行われるために必要な付随的業務をも含むものと解されるが、もとより、使用者は右のような業務であっても労働者に対してこれを無制限に命じ得るものではなく、労働者の権利を不当に制限することのないような合理的な範囲内で命じることができるに過ぎず、そして右合理性は、当該業務の内容、必要性の程度、それによって労働者の被る不利益の程度、当該業務命令が発せられた目的・経緯などを総合的に考慮して決せられなければならないところである。
 これを本件勤務指定について見ると、原告九名が従事した日勤雑務、リネン雑務及び一交雑務等の雑務作業は、糸崎運転区が本務とする列車運行業務等からすると付随的なものにとどまるが、同運転区における衛生・環境を維持し、労務の提供が円滑かつ効率的に行われるためには必要不可欠な作業であり、その内容においても、著しい精神的肉体的苦痛を伴うものとまでは認められない。そうすると、当時被告が会社発足直後であって、その余剰人員の活用と経費節減等による経営内容改善が全社的な課題とされていたことからすると、A区長が、国鉄当時から国鉄職員によって行われていた雑務作業に、同運転区の余裕人員を充てようと考えたことをもって不合理な判断ということはできず、また、原告九名が、昭和六二年三月一〇日付けで府中電車区から糸崎運転区に転勤してきたばかりで、同運転区において運転業務に就くためには前示のような教育が必要である一方、同運転区が担当する列車の運行に必要な乗務員は既に充足されていたことから、原告九名に雑務作業の勤務割り指定をしたことも、なお合理的な判断として首肯し得ないわけではない。また、原告九名のうちの一部の者に文鎮作成(ママ)作業(同作業の内容も著しい精神的肉体的苦痛を伴うものであるとは認められない。)を命じたことも、余裕人員をもって多少なりとも増収を図る意図に出たと推認される岡山支社の指示に基づいて行われたもので、その人選についても、同様の理由から、なお合理的な判断の範囲内に止まるものということができる。〔中略〕
 このような就業場所を特に限定しない労働契約にあっては、使用者は、業務上の必要に応じ、その裁量により労働者の勤務場所を決定することができるのであり、当該転勤命令につき業務上の必要性が存しない場合又は業務上の必要性は存するものの当該転勤命令が他の不当な動機・目的をもってなされたものである場合若しくは労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき等特段の事情の存する場合に限って当該転勤命令が権利の濫用となるというべきである。そして、右の業務上の必要性についても、当該転勤先への異動が余人をもっては替え難い高度の必要性に限定されるものではなく、企業の合理的運営に寄与するものであれば、その存在が認められるというべきである。
 そこで、これを本件配転命令について見ると、前示のような岡山支社の立案にかかる本件美化計画の目的である乗客への快適な輸送サービスの提供と会社イメージの改善は、旅客鉄道事業を主たる事業とし、しかもそれを基幹事業と位置付ける被告にあっては、もとより正当なものであるし、また、その時期についても、前示のような本四備讃線開業や瀬戸大橋博覧会の開催等の事情を考えると、時宜に適ったものということができる。更に前示のような本件美化計画の完遂に必要な作業量の見積りやこれに基づく必要要員数の算定過程にも特段不合理な点は見出せない。
 そこで進んで、本件配転命令についての人選に合理性があるか否かを検討すると、本件美化計画は、これを実際に行う岡山運転所及び岡山気動車区の人員のみでは必要な要員を確保できず、他の現業機関から要員を配転する必要があり、被告が右配転要員を当時右二現業機関以外で唯一余裕人員を有していた糸崎運転区の余裕人員と暫定直営に従事していた者合計一三名の中から選ぼうとしたことは、右一三名の担当職務内容と同運転区におけるその後の業務遂行上の便宜等を勘案すると不合理とはいえず、また、右一三名の中からは、前示のように、比較的年齢が若くて配転先での車両美化作業に適し、しかも岡山への通勤に要する時間が比較的少ない者との基準で原告七名が選ばれており、このような本件配転対象者の選定は、その過程、結果とも合理性を備えたものということができる。