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ID番号 06528
事件名 雇用契約上の地位確認等請求控訴事件
いわゆる事件名 JR東日本(千葉鉄道管理局)事件
争点
事案概要  国鉄の分割民営化に伴い、JR東日本に採用されなかった動労千葉の組合員が、JR東日本を相手として雇用契約上の地位確認を請求した事例。
参照法条 労働基準法2章
日本国有鉄道改革法23条
民法1条3項
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約の承継 / 新会社設立
労基法の基本原則(民事) / 使用者 / 法人格否認の法理と親子会社
裁判年月日 1995年5月23日
裁判所名 東京高
裁判形式 判決
事件番号 平成4年 (ネ) 2390 
裁判結果 控訴棄却(上告)
出典 労働民例集46巻3号899頁/タイムズ885号106頁/労働判例681号37頁
審級関係 一審/05933/千葉地/平 4. 6.25/昭和62年(ワ)412号
評釈論文
判決理由 〔労働契約-労働契約の承継-新会社設立〕
 控訴人らは、国鉄と被控訴人を含む各新会社とは形式的には別個独立の法人格を有するとしても、両者は実質的に同一性を有するとして、国鉄における労働契約関係が当然に新会社に承継されると主張するものであるが、控訴人らが根拠とするいわゆる実質的同一性の理論とは、(一)新旧両会社の間に、経営者ないし実権者、資本の構成、営業の実態(特に、内容、場所、設備、名称等)について同一性ないし類似性が認められ、かつ、(二)旧会社の解散と新会社設立に至る諸事情、すなわち、旧会社の解散の必然性ないし合理性の有無、旧会社の解散と新会社設立との時間的接着性、旧会社における組合活動の動向とこれに対する旧会社の対応等に照らし、旧会社の解散と新会社の設立が組合壊滅を目的とした一連の行為であると認められる場合に、新会社を名宛人として救済命令を発することを肯定するための理論として、労働委員会を中心に採用されてきたものと考えられる。しかしながら、法律関係とは異なる平面において不当労働行為等により不利益を被った当事者の原状回復を図る救済手続においてはともかく、法律関係の存否の確定を目的とする民事訴訟においては、社会的・経済的同一性のみをもって法律関係の当然承継を認める法的根拠とするに十分とはいいがたく、また、労働者が有機体としての企業に包括されその構成部分として取り扱われるべき性質を有するものと解すべき実定法上の根拠はない上、そもそも右の理論は、旧会社の解散と新会社の設立が組合壊滅の目的その他違法又は不当な目的に出た場合に適用することを想定したものと考えられ、法人格の濫用の問題と切り離して考えることはできないから、むしろ、別個の法人格を有する者の間において法律関係の同一性を架橋するためには、判例上確立された理論である法人格否認の法理を判断基準とするのが相当であり、かつ、これをもって足りるものというべきであり、したがって、控訴人らの実質的同一性に基づく当然承継の主張は採用することができない。〔中略〕
 以上の諸規定を総合的・合理的に解釈すると、改革法は、従来の国鉄との労働契約関係を各新会社に承継させることなく、承継法人たる新会社の職員は、設立委員が国鉄を通じて新規に募集することとし、各新会社に事業等を引き継いだ後の国鉄は、人格の同一性を有したまま事業団に組織及び名称を変更するに至り、新会社に採用されなかった国鉄職員との労働契約関係は、そのまま事業団との間で存続することとされたものと考えられる。新会社の職員として採用された国鉄職員は、国鉄を退職し新会社との間で新たに労働契約関係が創設されることになるが、新会社職員の退職手当等に関する通算規定(改革法二三条六項、七項)については、例えば国家公務員から地方公務員になる場合にも同様の規定(国家公務員退職手当法一三条)がみられるものであって、右の解釈の妨げにはならない。また、事業団の職員は理事長が任命するとの事業団法一七条は、新会社の職員に採用されなかった国鉄職員に関する従来の国鉄との労働契約関係がそのまま事業団との間に存続することを否定する趣旨ではないことは、各新会社に承継される国鉄の権利義務から労働契約関係が除外され、国鉄が新会社に事業等を引き継いだときは事業団に移行し、各新会社に承継されない資産、債務等の処理及び職員の再就職の促進を図るための業務等を事業団が行うことが明文で規定されていること等に照らし明らかといわなければならない(右の事業団理事長による任命行為に関する右の規定は、新会社の職員に採用されなかった国鉄職員との労働契約関係について、国鉄から法人格を同一にして組織及び名称を変更した事業団との間にそのまま存続することを確認する事務手続上の理由に基づくものと解することができる。)。事業団就業規則の制定及び規定内容についても、同様に右の解釈を左右するものではないというべきである。そして、右のような国鉄改革関連法令の基本的な考え方は、国鉄の鉄道事業その他の事業の経営が破綻し、効率的で輸送需要の動向に的確に対応しうる新たな経営体制を実現するための経営形態の抜本的な改革として、国鉄の事業を六旅客鉄道会社、一鉄道貨物会社の複数の新事業体等に分割するとともに(改革法六ないし八条、一一条)、国鉄の膨大な余剰人員の可及的解消を図ることとしたものと考えられ〔中略〕、たばこと電信電話の各民営化の際には、旧公社が解散され、新会社は旧公社の一切の権利義務を包括承継するとされたのと対照をなし、従前の労働協約等に基づく国鉄との労働条件についてもこれを維持することなく、新会社における労働条件は、設立委員が募集の際に新たに提示することとされており(改革法二三条)、この点にも、国鉄改革においては従前の労働契約関係はこれを断ち切り、新たな労働契約関係を創設することとした法の趣旨が明示されているものというべきである。
〔労働契約-労働契約の承継-新会社設立〕
〔労基法の基本原則-使用者-法人格否認の法理と親子会社〕
 1 法人格否認の法理とは、(一)法人格が全く形骸にすぎない場合及び(二)法人格が法律の適用を回避するために濫用されたような場合に、法人格の異別性の主張を許さないとする法律効果を生じさせるものと解することができる。控訴人らは主として右(二)の場合を主張するものであるが、前記二1の判示との関係上念のため右(一)の場合に当たるかについても検討するに、右(一)の法人格が全くの形骸にすぎない場合とは、一方の会社が独立の法人としての社会的・経済的な実体を欠き、実質的には他の会社の単なる一部門ないし名前だけの幽霊会社にすぎないなど、他の会社によって完全に支配されている場合をいうものと解されるところ、国鉄改革関連法令に照らし、国鉄改革における各新会社は、独立の資産を有し、独立の採算をもって業務活動を行うものであり、他の会社、法人から支配をうける関係にはないと認められるから、各新会社の法人格が形骸にすぎないということはできないものである。
 2 次に、右1(二)の法人格の濫用に当たるか否かについて検討するに、各新会社の設立と国鉄の事業団への移行を定めた国鉄改革関連法令の立法経緯は、国鉄の鉄道事業その他の事業の経営が破綻し、全国一元的な経営体制の下では適切かつ健全な運営が困難になっていることに対処して、国の基幹的輸送機関としての効率的な経営体制を確立し、国民生活及び国民経済の安定及び向上を図る上での緊要の課題に対応するため、その抜本的改革としての基本的施策を法令によって定めたものであること(改革法一条)が認められるから、右法令に基づく各新会社の設立と国鉄の事業団への移行をもって違法又は不当な目的を有するものとはいえない上、第三者たる国会による立法行為に基づく設立である点からもこれを否定すべきものと考えられる。したがって、各新会社の設立と国鉄の事業団への移行について、法人格濫用による否認の法理が適用されるべき理由はないものというべきである。