全 情 報

ID番号 06529
事件名 退職金請求控訴事件
いわゆる事件名 弁天堂事件
争点
事案概要  定時社員として雇用された労働者が、労働時間、労働内容等の労働実態は正社員とまったく変わらなかったとして正社員の退職金規定に基づく退職金を請求した事例。
参照法条 労働基準法11条
労働基準法89条1項3号の2
体系項目 賃金(民事) / 退職金 / 退職金請求権および支給規程の解釈・計算
裁判年月日 1995年5月29日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成6年 (レ) 226 
裁判結果 棄却
出典 労経速報1576号8頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔賃金-退職金-退職金請求権および支給規程の解釈・計算〕
 一 退職金請求権は、退職に伴い当然に発生する権利ではなく、就業規則や労働契約などにおいて、使用者が、その支給の条件を明確にして支払を約した場合に初めて法的な権利として発生するものと解すべきところ、(書証略)によれば、被控訴人には、社員就業規則、パートタイマー就業規則、退職金規程等があり、右社員就業規則二条二項は、「パートタイマーについてはこの規則は適用せず別に定める」と規定し、また、右パートタイマー就業規則二六条は、「定時社員には、退職手当を支給しない」と規定しているのであるから、被控訴人の就業規則には、定時社員の退職金請求権の発生根拠となる規定はないものと認められる。そして、控訴人が、定時社員であることは、当事者間に争いがなく、ほかに控訴人と被控訴人との間の退職金支払合意の存在を認めるに足りる証拠はない。
 よって、控訴人が、平成五年一〇月二日、被控訴人を退職したことにより、控訴人の被控訴人に対する退職金請求権が発生したものとは認められない。〔中略〕
 三 控訴人は、被告訴人は、定時社員に対し、平成三年三月ころ、同年五月から、入社三年以上、一日の労働時間数八時間以上の者には退職金を支給することを約束した旨主張する。そして、同年三月ころ、被控訴人代表者が定時社員の申入れに対して、退職金を少しでも出す方向で考える旨を答えたことがあることは、被控訴人も自認するところであり、また、被控訴人の職場の掲示板に控訴人主張と同旨の内容が記載された本件掲示物(書証略)が掲示されたことは当事者間に争いがない。
 しかし、控訴人は、その本人尋問中で、控訴人自身が本件掲示物を作成したことを自認しており、本件掲示物が、被控訴人代表者の意思に基づいて作成・掲示されたものとは認めるに足りない上、本件掲示物には、具体的な退職金の支給基準について何ら記載がなく、その記載自体、退職金の支給基準を約したものとは認められず、本件掲示後も、被控訴人のパートタイマー就業規則は改定されておらず、ほかに定時社員に対する退職金支給規定等も定められていないことも考え併せば、右回答及び掲示をもって、被控訴人と控訴人を含む定時社員との間で退職金支払合意がされたものとは認められず、控訴人の右主張は採用できない。