全 情 報

ID番号 06530
事件名 遺族補償給付不支給処分取消請求事件
いわゆる事件名 山形労働基準監督署長(山形交通)事件
争点
事案概要  大型バス運転手が、運転中のバス内で倒れ、翌日死亡したケースで(死亡後の鑑定により、死因はバルサルバ洞動脈瘤破裂と診断されている)、その業務起因性の存否が争われた事例。
参照法条 労働基準法75条2項
労働基準法施行規則別表1の2第9号
体系項目 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 脳・心疾患等
裁判年月日 1995年5月30日
裁判所名 山形地
裁判形式 判決
事件番号 昭和63年 (行ウ) 1 
裁判結果 認容
出典 タイムズ918号124頁/労経速報1575号13頁/労働判例682号76頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-脳・心疾患等〕
 1 労災給付支給の要件である業務上の疾病があるといえるためには、当該業務と疾病の発症との間に相当因果関係があることが必要である。労働者があらかじめ有していた基礎疾病が原因となって当該疾病が発症した場合であっても、当該業務の遂行が当該労働者にとって精神的、肉体的に加重負荷となり、右基礎疾病をその自然的経過を超えて著しく増悪させて死亡時期を早める等、それが基礎疾病と共働原因となって死の結果を招いたと認められる場合には、特段の事情がない限り、相当因果関係が肯定されると解するのが相当である。
 2 一般論として、道路において車両を運転する運転手が相応の精神的緊張を強いられることは、経験則上容易に認められるところである。そして、大型車両に多数の乗客を乗せて運転するバス運転手の場合、多数の乗客の生命身体の安全に配慮しながら大型車両を操縦し、また、定期路線を時間通り走行したり、目的地に時間通り到着したりするといった時間遵守の配慮も要求されるから、それに応じて精神的緊張も高まるということができる。〔中略〕
 Aの災害前日までの労働状況が他の運転士と比較して著しく過重であったとは必ずしも断定できないが、発症前一週間の勤務状況や班長業務の遂行状況からみて、Aが災害当日に相当程度の疲労を残していたといえること、災害前日から当日にかけて、休日の返上、地図等による初めて通過する予定の道路の確認、睡眠不足、事故現場の目撃、運転しにくいバスの運転といった様々な精神的負担が重なったこと、災害当日は、右のようなバスで高速道路や細くカーブした不案内な道を進んで行くという負担が本件発症の地であるB温泉まで続いていたことが認められる。したがって、Aには、バス運転の業務に従事する運転士が通常負担していると考えられる精神的緊張に加え、災害当日の業務遂行中に生じた様々な特有の精神的負担が重なり、更に、災害当日までの業務によって生じ、未だ回復されていない疲労も相まって、Aは、災害当日発症時まで相当程度の精神的負担ないしストレスの下にあったと推測できる。このような状況においてAの血圧が上昇し、それが持続して、Aがもともと有していた高血圧症が悪化し、バルサルバ洞動脈瘤の更なる膨張を促して、やがてはその破裂によって、Aを死亡するに至らしめたというべきであるから、Aの死亡については業務起因性があり、その死亡は、業務と相当因果関係があるものと認めるのが相当である。