全 情 報

ID番号 06548
事件名 解雇無効確認事件/賃金支払請求事件
いわゆる事件名 富士タクシー事件
争点
事案概要  乗車客から数回の苦情申し入れのあったタクシー運転手が、接客不良、乗車拒否を理由として懲戒解雇されたのに対して、その効力を争った事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
労働組合法16条
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 信用失墜
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒権の濫用
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒権の根拠
裁判年月日 1995年8月15日
裁判所名 新潟地
裁判形式 判決
事件番号 平成5年 (ワ) 363 
裁判結果 認容,一部却下(控訴)
出典 労働民例集46巻4号1198頁/労働判例700号90頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒権の根拠〕
 労働協約は、従業員の懲戒処分(特に懲戒解雇)に関し、就業規則に比べて懲戒権者である被告の裁量をより限定する内容のものであることが明らかである。その限りにおいて就業規則は労働協約に反するから、就業規則のうち右部分に関する規定は、労働基準法第九二条一項に反し、無効であるといわざるをえない。そうすると、被告がする懲戒解雇処分の根拠規定は、労働協約に求めるべきこととなる。
 この点につき、被告は、労働協約における懲戒処分の根拠事由は制限列挙でないことを前提として、労働協約の懲戒解雇事由に規定されていない乗車拒否も、タクシー営業に及ぼす害の重大性に鑑みれば、当然に懲戒解雇根拠事由となる旨主張する。しかしながら、使用者は、懲戒解雇の根拠事由が予め就業規則や労働協約に規定されている場合にのみ、懲戒権の発動を許されると考えるべきであるから、懲戒解雇事由に関する規定は限定列挙と解しなければならない。又、被告は、本件懲戒解雇の根拠規定として、本件懲戒解雇の直後に策定された就業規則の第六三条(3)「外部からの指摘を受ける言動を行い、会社の信用を傷つける行為があり、数回にわたり注意を受けても改めないとき」を追加するけれども、事後に策定された規定をもって懲戒処分の根拠規定とすることが許されないことは、論をまたない。よって、被告の右主張は採用しない。
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒権の濫用〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-信用失墜〕
 懲戒解雇は、労働者の生活基盤を根本から揺るがす、最も重い懲戒処分であるから、企業内秩序や企業の対社会的信用を維持するため、被懲戒者を企業内に留め置くことが到底受忍できないような場合にのみ発動されるべきこと、被告と全新潟タクシー労働組合富士分会との労働協約が被告の就業規則に比べて懲戒解雇事由を限定的に規定していること、原告に対しては、本件懲解雇にいたるまで、けん責をはじめ減給、出勤停止等の軽い懲戒処分の発動もされていないこと(これらの懲戒処分を適宜に活用することにより、原告の接客態度の改善を図るとともに被告の社会的信用を維持することは、不可能でなかったというべきである。)をも考慮すると、原告に係る前記各事案は、懲戒解雇事由を規定する労働協約第三二条二項各号のいずれにも該当するとはいえないと解するのが相当である。